井出

her/世界でひとつの彼女の井出のネタバレレビュー・内容・結末

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画のテーマは恋である。恋を失い、また恋して、失う。そんな現実的で、ありきたりの映画だと思う。もし恋人がOSだとしても、普通の恋である。そう思わせてくれる。OSの恋でも、普通の恋でも続くか不安になるのは一緒なのだからと思わせてくれる。
愛を表現するのに用いるのは、光である。離婚調停中はあからさまに暗くて、恋が始まると、光が差して世界がパステルカラーに染まる。幻想的で、恋の高揚感を上手に表現する。全てが美しく、彼女の声に包まれる、そんな気がしてくる。
世界は聴覚による情報伝達が主流。めがねを落としても拾わず、手はイヤホンに向かうことからそのことがよくわかる。思い出は曲という形に残し、それを写真と呼ぶ。その曲がいいんだわ。アーケイドファイヤとオーウェンパレットは注目だね。
セックスも声でする。PGはついてるが、視覚なら18禁もの。映倫の判断基準を疑うくらいエロいし、視覚優位にかなり挑戦的。この主張は面白い。
やはり人工知能だから、リアルとの境界に葛藤する。OSの感情はリアルなのか。デカルトを持ち出せばすぐに解決してしまうが、本当にそんな単純なことなのかとも思う。考え続けるのが人間の性だからね。
感心したのは、離婚届へのサインの音が過去を消し去っていくように聞こえるシーン。これはすごかった。ルーニーマーラは超きれいだし。
ホアキンフェニックスはやっぱりすごい。手紙の代筆と役者は似ていて、他者を演じること。役者をこなす繊細な彼には、感情移入がしやすかったのではないかと思う。
あとユーモアがはんぱない。ゲームの小僧とか脇に肛門があった場合の絵とかシュールすぎてめっちゃ笑った。
最後の夜明けは救いがあったし、OSの彼女のように、暖かくて包容力のある映画だったな。スパイクジョーンズは弱者に本当に優しい。
井出

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