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バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所のhorahukiのレビュー・感想・評価

3.5
A24の新作ホラー『In Fabric』に向けて♫

「音」が与える影響にこだわった、新鋭ピーターストリックランド監督によるサイコスリラー。良く名前を見かける監督だから見よう見ようと思いつつ先延ばしにしてましたが、新作『In Fabric』が評価クソ高いので、まずは唯一日本に入ってきてるコレから。

タイトルのせいで長い間ドキュメンタリー映画だと勘違いしてたのですが、70年代イタリアの音響効果製作所を舞台に、ジャーロ映画に様々なアイデアで音を付ける音響技師を描いたお仕事覗き見ムービーでした。

映画の中で製作してるのは『呪われた乗馬学校』という香ばしいタイトルの映画。神父が魔女を拷問したりナイフで滅多刺ししたりするみたいなんだけど、魔女とされる女たちは本当に魔女なのか、それとも実はキリスト教徒なのか…っていう要素もあるっぽくて普通に見てみたくなった。

本作はその映画内映画の本編は一部を除いてほぼ見せず、音を挿れるという作業部分だけをひたすらに映す。その作業によりどんな効果が本編に現れたのかと言った検証部分も同様に一切ない。成果物は見せず、製作の裏側だけを描くという通常の映画からしたら逆転構造。更には映画に音を挿れることによる(本編ではなく)音響技師側への影響を描く方向へと話が進んでいく。

女優陣は何度も何度も繰り返し大絶叫のような悲鳴を収録しているので、スタジオは日常的に女性の悲鳴が響き渡っている異常空間。更にはキャベツにナイフを刺したりスイカを潰したりといった何でもない音が、映画内映画では人を拷問して痛めつけたり、人体を損壊させる残虐な音へと変貌する。全く同じ音のはずなのに全く違う結果を生み出すという異常性がだんだんと不気味に思えて来る。

主人公はとにかく温厚な人物。ママとの手紙のやり取りからも主人公が平穏を大事にする人柄なのが伝わってくる。そんな主人公が悲鳴の響き渡る異常空間に置かれ、音を作る(残虐を作り出す)ことに自分が加担するという異常を仕事として強要され、更には非道な言葉しか見当たらない映画内映画のプロットに永遠と触れ続けなければならないことによる精神(希望)と行動(義務)との乖離が、現実と虚構を線引きするスクリーンという境界を曖昧にしていってしまうのが病的で怖い。

自分の体に血のように飛び散った赤、何度も登場する蜘蛛に対する対応による精神侵食の進行の表現、種による価値観的侵略、現実(自分の精神)を蝕む映画という暴力に抗うように閉めるドア、雛鳥による自身の心の崩壊等々、象徴的表現が非常に多く、自分が作り出したはずの虚構の残虐が写し鏡のように現実に対して跳ね返って来るに至るまでを丁寧に土台形成していくのがうまい。

主人公はイギリスから音響技師としてイタリアに招かれる。ハマーも翳りを見せ、70年代半ば以降検閲の厳しさがエスカレートした当時のイギリスでは残虐な映画が上映禁止されていた一方、イタリアでは残虐の代名詞的なジャーロの全盛期。本作はそう言ったイギリスとイタリアのホラー界の実情をも反映した作品なのだろうなって思った。

正直面白いかと言われると、う〜ん…って感じだけど、異様な存在感を放った作品なのは間違いないし、A24が本作の監督に目をつけたのも納得。次は『バーガンディー公爵』見ようかね。
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