人と人とはどこまでもすれ違い、貴方と私はいつまでも一つにはなれない。どうにかしてその溝を埋める為には、言葉の意味を正しく理解し、思いを正しい言葉で正しく伝え、正しい言葉で正しく伝えた思いを相手にも正しく理解してもらう必要がある。ただそれはとても難しい、いやむしろ不可能である。と、ここでストップしてしまうのがハネケやトリアーなのだとしたら、濱口竜介はその一歩先を目指している監督、いやむしろ「人間の一人」であると言えるのではないか。そんな事をこの処女作から既に強く感じるし、それは『寝ても覚めても』に至っても何一つブレる事の無い核、太い幹として彼の心と体を貫いている気がする。好きになる人、好きな人、好きだった人、嫌いになる人、嫌いな人、嫌いだった人、時が経てば僕等の関係も変わる、そして何食わぬ顔で再会し、何食わぬ顔でまた別れる。もう会えない人、また会える人、行ったり来たり、繰り返し、繰り返し、そうしてまた走り出す、ゴールを決めたからではなく、ゴールテープを切るために。

（確かロングverだった気が、、、）

濱口監督学生時代の卒業制作映画。
この頃から登場人物のセリフには、確実に他の映画では聞けないセリフが盛り込まれていた気がする。

とはいえ、さすがにスクリーンでみるには堪え兼ねる画質。
8ミリフィルムで、状況の把握すら難しい。
そもそも素人の演技なのと、絵音があってないところもあって内容を把握しようとするのに手一杯になる。

世の中は『ローグ・ワン』で盛り上がっていますが、ポレポレ東中野の濱口竜介監督作品の特集上映『HAPPY HAMAGUCHI HOUR! 』で、個人的に地味に盛り上がろうかと。

濱口監督の原点ともいえる本作。8ミリで撮影した映画で画質は悪いけど、大学の映画研究会時代の作品からすでに、濱口竜介しているらしい（当たり前か）。

亡くなった兄が途中まで手がけていた映画を完成させようと、友だちに勧められるままに映画撮影に取り組む主人公たちの様子と、完成した劇中映画の2つの構成。劇中映画だけのshort versionもある。

美醜ではなく、味があるというか、何か意味ありげな「いい顔」の人をキャスティングし、その人の身体に違和感のないセリフをあてる。この「いい顔」というのが濱口監督作品を鑑賞する上で、ポイントのようだ。

監督によれば、先輩だったけど、留年して同学年になった松井さんが「いい顔」で、彼を主人公にして卒業制作を作りたかったということらしい（ちなみに女子は可愛いと思っていた2人に出演してもらったとのこと。青春ですな）。
http://culture.loadshow.jp/interview/eiga-watashi-ryusuke-hamaguchi/

主人公は、映画を完成させるかどうかも何食わぬ顔。女の子に対しても何食わぬ顔。自分の気持ちは表に出さず、ポーカーフェイスで、他の人とすれ違う。このあと観た3つの作品にも通じる主人公の人間関係。

演出、ショット割り、映画と劇中映画をつなぐ構成の妙などについて、あれこれ語れる能力はないけど、非凡な才能がうかがえるらしいこの作品。「濱口監督作品は『いい顔』である」と思いながら、いずれまた見たいかも。