ふき

インターステラーのふきのネタバレレビュー・内容・結末

インターステラー(2014年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ネタバレ注意! Spoiler Alert!

限界の近い地球から人類を救うために、宇宙に旅立つSFアドベンチャー作品。理論物理学者キップ・ソーン氏が科学考証とエグゼクティブプロデューサーに名を連ねる(KIPPのモデルもか?)。

正直なところ、過度に期待してはいなかった。クリストファー・ノーラン監督の作品は『ダークナイト・ライジング』で「あれっ?」と思ってしまったので。
だが、序盤こそ「顎を上げて軽薄そうに笑うマコノヒーさんって、トム・クルーズさんっぽい」「作物がやばいって言ってるのに畑はガンガン轢き潰すのな」「睫毛鼻毛耳毛が伸びまくって手入れ大変そうだな」と半笑いだったものの、宇宙にあがる直前のカウントダウンあたりからガンガンテンションが上がっていき、その後は完全にノックアウトされてしまった。

ソーン氏が原案から考証まで関わっているだけあって、現在の最新研究成果である様々な知見が映像化されて、しかもそれが模式図やドキュメンタリー番組のようなクオリティではなく、最新技術とクリストファー・ノーラン監督のクッキリした映像で現れるのだから、それだけでもう「こんなの見たことねー!」と大興奮だった。さらにそれらがただの研究発表のようなオマケではなく、お話を動かすための重大な機能を持って、つまり大きくお話が動く場面で登場するので、その相乗効果は半端ではない。
特に、燃料が足りなくなった小型シャトルで、公転していないブラックホールでスイングバイ? ――と見せかけてTARSとクーパーの二人がペンローズ過程でアメリアを送り出すところは、申し訳ないが嬉しくて叫んでしまった。

初見時は、アメリアがエドマンドの惑星に無事到着、地球サイドのお話をまとめながらプランBが発動して終わりだろうと思った。TARSが「前へ進むためには、何かを後ろへ置いていかなければならない」と語ったように、クーパーとTARSと地球と人類を後ろに置いて、新たな天地と人類へと進むのだと。序盤の謎がいくつか残っていたが、あれはまあ「TMA・1」みたいなものがいたんだろうと、詳しい説明は『2001年宇宙の旅』のようにノベライズ版にあるのだろうと納得できた。強いて言えば、事象の地平線で制止するクーパーの宇宙船を見たかったが、いやいや、ペンローズ過程をこのクオリティで表現してくれたんだから、不満など言うまい。

……なのに次の展開で私は、下品な話、クソを漏らしかけた。
カーブラックホールに落ちたクーパーが見た、本棚のあちこちがバグったようにマトリクスを作る物体、テッセラクトに映し出された四次元空間を見た時、全身の力が抜けた。これが見られるとは。
というのは、この「時間が折り畳まれて空間の一要素として存在している」イメージは、私事で恐縮だが私が二〇年近く考え続けている概念なのだ。これをどう表現すればいいか、と考え続けているモチーフなのだ。
それが見事に、象徴化というにはあまりに具体的に描かれていて、本当に感動した。今思い出すだけも鳥肌が立って鼓動が早くなる。
この時点で、本作は私の特別な一本になった。
キップ師匠、本当にありがとうございます。『ブラックホールと時空の歪み』も『The Science of Interstellar』も面白かったです(やっと読み終わった)。

もちろん、科学的な考証や映像が面白いのと同じくらい、人々のドラマも素晴らしかった。
エドマンドの惑星は確かに正解だったが、アメリアの涙にほだされて直接向かっていたら、クーパーがブラックホールに落ちることはなく、プランAは完成しなかった。
だが同様に、五次元時空間にクーパーが到達しても、彼にマーフへの強い思いがなければテッセラクトがマーフに繋がることはなく、プランAは完成しなかった。
「知性」と「愛」が合わさった時、我々は最強になる。
そんな簡単だが困難な条件でようやく辿り着いた、誰も不幸にならなかったこの結末で、号泣せずにいられるものか。

気になった箇所で大きいのは、クーパーが重力でマーフにメッセージを送るところ。本棚を叩いたり時計の上に手を伸ばしたりと漠然としか描写されないので、正直映画版ではなにをしているのか分からなかった。ノベライズ版ではクーパーが重力を操作する具体的な描写があり、それ以外でも色々補完できる部分があるので、映画を気に入った方は一読を勧める。

ところでこの話は、結局「地球を捨てる」件を肯定している。コロニーを作って宇宙に進出し、他の星を開拓して世界を広げることをハッピーエンドとして描いている。それどころか「三次元空間を捨てる」と言っている。その未来人は、過去の三次元空間人がいなければ愛で次元を繋ぐことができない、と示唆している。
それは「ファーストボーン」ではないか? 本作は本当にハッピーエンドだったのか?
不思議な後味の残った一作だった。

飢饉だ飢餓だと騒いでる割りにトウモロコシをちゃんと残すアメリカの飽食感は……「愛」かな?
ふき

ふき