カラン

ハート・オブ・ジャスティスのカランのレビュー・感想・評価

4.5
3流小説の人気作家がニューヨークの有閑クラブの外で白昼、射殺される。犯人もその場でピストルを咥えて自殺。事件を担当することになった記者が美しい姉の後を追う。ブラジル人のブルーノ・バレットが監督したケーブルテレビ用の映画。

☆主人公

エリック・ストルツが事件を追う記者で主人公。軽薄で頭が回って女にもてるし、おじさんの上司に好かれる自己中のブン屋。若者らしいシャープな動きでくたくたのオーバーサイズの上着の襟を直して、上司の部屋の前で作業をしている同僚の女の尻を触る。既に売れっ子になっていた当時は30歳くらい。過去最高レベルでマイケル・J・フォックスに似ていた。(^^)

☆美しい姉と精神病生の弟

姉と弟というとレオス・カラックスの『ポーラX』(1999)や、ベルトルッチの『ドリーマーズ』(2003)を思い出す。前者ではカラックスの恋人カテリーナ・ゴルベワが闇の姉で、地下世界でまぐわるが、母親役のカトリーヌ・ドヌーブが自分を「姉さん」と呼べと強要して、バスタブでのドヌーブのヌードまで映し出すので、タブーが累乗になって脳髄がつーんとなる圧倒的な背徳感だった。後者の『ドリーマーズ』はエヴァ・グリーンが姉で、姉の血みどろのヴァージン・ロスを弟が見ていて、姉は弟の自慰行為を見るというインセストを通してシネフィルを描くいうベルトルッチ節であるが、インセストとシネマが絡みついてこない理由は、ゴダール愛を語りたいのはイタリア人だが、アメリカ人を主役にして、エヴァ・グリーンからもルイ・ガレルからもフランス語を奪ってしまっているからである。ベルトルッチがゴダール映画を英語吹替で享受していたのなら仕方がないのかもしれないが、まあそれはないでしょうな。

『ハート・オブ・ジャスティス』の姉と弟はニューヨークのハイソな邸宅に暮らしている2人であるが、映画の冒頭で弟が自殺するので、インセスト的描写は新聞記者のエリック・ストルツの目というより耳を通した回想を経由することになる。ダーモット・マローニーは63年生まれだが、70年生まれのジェニファー・コネリーの弟役をかなり立派に演じる。精神病の前駆症状のような被害妄想を膨らませていた。劇中でヴィヴァルディをバイオリンで何度か弾くのだが、堂に入った演技で感心した。ご本人はチェロをやっていたらしい。劇中で演奏するのをチェロにしたら良かったのに。

姉がジェニファー・コネリーで、彼女は実年齢に近い役柄であったようで、ふっくらした顔立ち。トレードマークでもあるブルネットの美しいロングで、衣服は黒で固めている。ラスト近く、主人公である記者を誘惑するのだが、ガーターベルトで留めたストッキングに包んだ足からハイヒールをそっと取ると、猫足と言えばいいのか、ベッドに座りながら床につま先だけつけて、記者の男を見つめる。彼女が触っているのは自分の身体なわけだが、非常に繊細に扱うその動きは、自分への配慮が充満している。

この官能的な下着姿の若い身体の動きは、究極のナルシシズムを発散する誘惑であり、悪魔的な美しさである。エロスを目的にして映画を作るのも観るのも重要なファクターだが、もしそれこそが本作の目的であるならば、この映画は目的を達成していることになるだろう。この自分の快楽にのみ配慮する態度は、この映画の展開を支配しているのである。ジェニファー・コネリーの演技と監督の演出が凝縮されたショットである。

☆窓、背中を追うPOV

冒頭の事件の後、犯人の自宅を突き止めた記者が邸宅を見上げると、部屋の中に切り替わり、カメラは女の背中を映す。次に女の視点に同一化して、窓の外を映す。この映画は女の背面をストーキングして、①窃視的なPOVを使う。謎を追う記者が頼りにするのは、自殺した弟が録音したテープである。こうして②テープを経由したフラッシュバックを本作はゴージャスな照明と見事なカラーグレーディングによって、全編をセピアに染め上げる。②はもちろん、①も想い出色に染まり、②の人物の訴える監視の眼差しと彼自身の迫害妄想の眼差しが、①と融合していった最後に、弟の自殺と姉の誘惑が継起するモンタージュは見事である。

まとめよう。窃視に窓の表象が土台を与え、背面POVのショットが偏執性を煽る。こうした要素をセピアのフラッシュバックが覆い尽くし、フラッシュバックの終焉は暗殺と自殺というカタストロフィだが、それが姉のエロチックなナルシシズムのショットに再度回収されていく。見事である。

カメラがもう少しストーリーラインに対して過剰であると、シネフィルが喜び始めていただろう。たしかに端正ではあるのだが、もう少し遊びがあってよかったかもしれない。ブラジル人の監督は1955年の生まれとのこと。いくつか観てみよう。


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