寝木裕和

サタンタンゴの寝木裕和のレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
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ヴェルグマイスター・ハーモニーの4K レストア版を鑑賞したので、思い立ちこちらの作品も再鑑賞。

以前観た時よりも長く感じなかったのは体調によるものなのか…。

「これ…必要なの?」と思ってしまう長回し、でもそのあたりの意味性を考えると、この監督の意図が見えてくる。

少女エスティーケと子猫が戯れるシーンが長回しなのは可愛らしくてずっと観ていられる。
… まあ、そのあと少女の狂気性が顕になって子猫が生贄になるのだが…。
そんな感じで、『時間』というものの永続性と『感情』というものの不条理性の対比を描くのに長回しという手法を用いていたり、やはりこのやり方にはこのやり方なりの効能があるように思える。

内容の方は、とある時代のとある村民たちが働けど働けどけっきょく「なにものか」に搾取され続けるという(もっともなこと言っているようで村民を統制しようとするイルミアーシュは旧ソ連時代の権力者の隠喩だろう。)市井の民の憂鬱… 彼らのため息のようなものを物語としてしたためている。

ここに登場する人物たちは、国家としての体制がどうなったとしても、歴史的にこれが続いているのだと、静かに訴えている。

酒場でのタンゴの四分の二拍子… それが永遠に続くのと同じように。
それに乗って踊るしかないみたいに。
それに乗って踊るしかないという絶望を目の当たりにした直後、エスティーケが自らの命を絶ったように。

久しぶりにこの作品を鑑賞してみたら、まるで8時間にわたって戦前のカントリー・ブルースに対峙しているような感情が残った。
寝木裕和

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