垂直落下式サミング

むこうぶち 高レート裏麻雀列伝の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.3
人気麻雀漫画の実写化シリーズ第一段。
袴田吉彦演じる傀がとにかく強い。漫画だと煽りにしかきこえないキメ台詞だが、無表情な袴田テンションの「御無礼!」はなかなかクールでかっこいい。
徹底して原理的で人間味のない主人公のかわりに人情派の役割を担う安永を演じるのは高田延彦。男気をアピールしすぎて演技は危うい部分も目立つが、なかなかどうしてこの世界観にうまいことおさまっている。
Vシネ役者たちの抑えた演技によって場面が安定しているためか、高田延彦はじめ、つまみ枝豆、ガダルカナル・タカ、及川奈央など、タレント演技者たちがうるさくない程度に個性を発揮できており、意外にも物語にぐっと入り込むことが可能。
撮影においても、麻雀卓を囲うだけの場面を手持ちカメラで動き回って、必要以上にダイナミックにみせるなど器用なことをやっている。心の声ナレーションとともに小さな卓のまわりをぶれながらぐるぐると動いて、袴田のアップで彼が「御無礼!ツモりました。」と宣言する独特の緊張感を演出。原作漫画の雰囲気をよくとらえていると思う。
つまみ枝豆は、傀に負けたことで借金苦となり自殺してしまうが、そのあと特にフォローらしいものはない。主人公が地上げ屋から町工場を取り返すとか、少なくとも罪悪感を感じて彼の奥さんに金を貸すとか、そんな良識めいた甘えが通用するなまっちょろいストーリーにしなかったのは、『むこうぶち』の実写化として素直でよろしい。負けた人間の物語はその場で終了してしまうのである。後がない勝負師にセカンドチャンスはない。
ところで、長期連載するような漫画家はどんどん絵が上手くなっていくもので、『ジョジョ』や『バガボンド』の変化をみていると、過去の自分より今の自分のほうが上手くないと気が済まない風で、ストイックなアーティストたちの性がわかりやすく伝わってくる。
しかし、ギャンブル・マネーゲーム系を得意とする漫画家は、画力がある一定の水準に達すると変化を止めてしまう傾向がある。『カイジ』『インベスターZ』なんかが代表的で、自分の世界観を伝えるのに必要な絵を手にしたその瞬間から、自分より上手いやつは業界内にいくらでもいるのに絵に注力しても仕方ないと、役にならない手牌を切りはじめるのだ。この感覚がすでに勝負師的といえる。
「バトル」を描く作家の興味は、しのぎを削る両者の葛藤や友情であったり、物理的・心理的な力のやり取り、または手に汗握る攻防戦の躍動にある。
対して、人間同士の「勝負」にこだわる作家が描いているのは、世の中は勝つか負けるかしかないということ。
相対した目の前の相手に勝つことがすべてで、勝ち続けることが正しい。勝たなきゃゴミだ。勝敗こそが常に平等である。そういう世界なのである。そこに少年漫画の武士の情けは存在しない。
感情を廃し勝負にのみ徹すること。勝てば極楽負ければ地獄。ふたつしかないのなら何をおいても勝て。たとえ相手が人の形をした鬼だとしても。本作において、傀と戦う者に求められているのはまさにこの姿勢なのである。