ベイビー

ノスタルジアのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

ノスタルジア(1983年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ずっと観たかった作品。

本作が8月いっぱいでアマプラでの見放題を終えると知って慌てて視聴したのですが、これは映画館で観るべき作品だと思いました。どの場面を切り取っても圧倒的に映像が美しすぎます。

まだトスカーナ地方にあのロケ地は存在するのでしょうか? “郷愁”というよりも“デストピア”のような荒れ果てた風景ですが、その荒廃した景色の中に言いようのない美しさを感じてしまいます。その風景を余すとこなく切り取られた美しい映像は、現実と虚構の境目を曖昧にさせ、この物語をより詩的な情緒へと誘います。

これがタロコフスキー・マジックというものなんですね。画角に収められた足し算と引き算。たっぷりと余韻を残した長回しや光と影をふんだんに使ったコントラスト。屋根や床を叩きつける雨。そして幻想世界へ導く濃霧。それら洗練された映像は言葉以上の説得力となって意識下の奥の奥へと押し寄せていきます。

とは言え、この物語の内容が全て理解できたかと聞かれると必ずしもそうでなく、映像をも上回る詩的なセリフになかなか頭が着いては行けませんでした。しかし、この作品に関してはそれでいいのかも知れません。もしこの作品を観て、初見で全てを分かったと言うのなら、それこそドメニコの言うところの“エゴイスト”になってしまいます。

もちろん何回も観直して作品の全てを理解し、その上考察もできるとなると大変素晴らしいのですが、この作品を観た人各々が詩を読むようにして、感じるまま、思うがままに心に受け止めておけば、それはそれで正解なのだと感じました。

最後にドメニコが放つ“火”と、ゴルチャコフが守り続けたロウソクの“火”。

1+1=1

この式が世の理りを示すというのであれば、この二つの“火”は一つの“火”ということになるでしょう。どちらも自らを犠牲にし、世界を救おうとした“火”ということになります。

それと併せて言えば、“郷愁”とは“一つ一つの思い出”と言えるのではないでしょうか。一滴の水の上に同じ水を一滴垂らしたとしても、そこに残るのは大きな一滴です。それと同じように思い出を一つ一つ集約すれば、必ずたどり着くのは幼かった子どもの頃。あの水源から湧き出る澄み切った水のように、まだ正しさも穢れも知らなかった幼い頃の自分へとたどり着く“追憶”です。その思い出の一つ一つが純化されればされるほど、“郷愁”は美しい姿のまま手の届かないところまで遠ざかるのです…

とにかく衝撃的すぎるほど美しい作品でした。
何度でも言いますが、映画館で観たかったです。
ベイビー

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