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ノスタルジアのKeiのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
3.7
アンドレイ・タルコフスキー監督の作品を初鑑賞。
本作品のテーマは「亡命に対する葛藤」であると考える。
タルコフスキー自身この映画を作成した後にソ連からの亡命を発表しており、本作品はそうした自身の亡命に至るまでの葛藤を描いた自伝的作品と捉えることが出来る。
作中では過去にロシアから亡命し結果的に故郷が恋しくなり帰国した音楽家サフノフスキーの存在が語られる。
アンドレイはサフノフスキーの研究をしているため上記したサフノフスキーの過去は亡命に関するアンドレイの考えに大きな影響を与えていると推測されることに加えて、アンドレイが眠りについた時に故郷を想う夢を見ていることを踏まえると、アンドレイは亡命後に望郷の念を抱く可能性があることを懸念し亡命することを悩んでいると考えることが出来る。
また、狂人として作中に現れるドメニコもアンドレイに亡命の是非を考えさせる存在として描かれる。
ドメニコは自分の信念から家族を7年間も監禁した。
アンドレイが自身の信念からイタリアに亡命することでロシアに残した家族に迷惑がかかるという構図は、ドメニコが自身の信念から家族に迷惑をかけたという構図と一致しており、それ故にドメニコとの出会いと家族の監禁の過去についての話を聞くことを通してアンドレイは亡命の是非を考えることとなった。
また、本作品ではドメニコという狂人を通して当時のソ連への体制批判も行われる。
ドメニコの主張は世界の救済である。
ドメニコは自身の家でアンドレイに対して「…全ての人を救うべきなんだ、世界を」と語った。
また、ドメニコが広場で焼身自殺を図った際に流れていた音楽は人類愛を謳ったベートーヴェンによる「歓喜の歌」である。
これらのことを踏まえるとドメニコは人類愛から世界の救済を唱えていたと推測出来る。
そしてタルコフスキーがソ連の体制に対して否定的であった事を考慮すると、タルコフスキーは自身の人類愛とそれに動機付けされた世界の救済という主張をドメニコに投影しており、ドメニコを通してソ連(「救済」が実現されていない「世界」)への体制批判を行っていると言うことが出来る。
こうした内容に加えて、本作品では叙情的な映像が作品全体を通して使われていた。
タルコフスキーの作品では水などが象徴的に用いられることが特徴だ。
そうした特徴は本作品でも表れており、アンドレイの亡命への迷いを具象化したものとして、常に形を変える「水」が使われていた。
総じて、登場人物の心情を表現する手段として水というユニークな手段を用いている点は評価できるが、タルコフスキーの主張が言葉や映像、音楽を通して仔細には語られずそれ故に鑑賞者が作品から受け取る内容が薄いものとなってしまう点が評価出来ない点だ。
タルコフスキー監督作品では、有名な「惑星ソラリス」「ストーカー」「鏡」「サクリファイス」などがあるため、これらの作品も鑑賞しようと思う。
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