テオブロマ

ノスタルジアのテオブロマのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
4.0
大好きな作品『落下の王国』のコメンタリーで、監督が「タルコフスキーみたいだろ」って言ってたのがずっと気になってたから観た。タルコフスキー作品ってどんなのだろう、大変に難解らしいということしか知らないまま何年も経っちゃったけど観られて良かった。中でもこれを選んだのは単に私がイタリア好きだから。

話に聞いていた通り「難解」の一言。とにかくよく分からないけどとにかく美しい。私にはこの作品がどんなものか表現する語彙力がないのでそんなことしか言えない。犬がとても可愛い。この美しい映画を大好きなイタリアとイタリア語で撮ってくれたのが嬉しい。それでいてロシアか北欧かどっかで撮ってるの?ってくらい寒々しくてイタリアらしさ0なのがすごい。

ロシア文学を映像にしたらこんな感じだろうというような、彩度が低かったりモノクロだったりする薄暗い雰囲気に満ちた世界感。ほぼ音楽らしい音楽もなく、詩的な台詞しか吐かない人間味のまるでないマネキンみたいな人達が出てくる。霧や雨、湯気、闇に覆われて人物の表情ひとつさえよく読み取れない。室内に降りしきる雨とか水没した教会のような場所とか、どこもかしこも陰鬱で薄ら寒く寂しげで、まるで主人公に忍び寄る死の気配を視覚化したかのよう。そしてどの瞬間を切り取っても絵画のように完成された美しさがある。

異様なレベルの長回しが多くて『レヴェナント』を少し連想した。実際にはうまくカット割をしてるのかもしれない。また長回し中に同じ人物が2回映るカットなどは、絵巻物が映像になったような不思議な感覚を覚えつつ、一旦映り込んでから大急ぎで次の位置に移動してるのかなと考えるとちょっとだけ微笑ましい気分になった。

どの瞬間に画面のどこを観ても息がつまるような美しさがあるので、そういったものが好きならぜひ観て欲しい。でもただぽかーんと観るだけというのを許してはくれないので、観る人を選ぶのは間違いない。退廃的な美を堪能したい人におすすめ。
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