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グランド・ブダペスト・ホテルのeichanのレビュー・感想・評価

3.7
楽しい映画、というよりはきれいな映画といった感じ。映像や演出はかなり凝っている。1930年代の中央ヨーロッパ文化の味がしっかり出ていて雰囲気はとてもいい。

例えばホテルの外観は現代の視点で見るととても奇抜。別な言い方をするとファンタジーチック。私は映画を見る前にはケーキのようだと感じた。ところで本編ではケーキも重要アイテムとして出てくる。ケーキ、ホテルどちらもボーイのゼロにとっては大切なアイテム、大切な思い出のシンボルである。鑑賞後にホテルの外観を見るとさらに素敵に見える。

ストーリー自体は合理的でなかったり分かりにくい部分もあるので、そこはコメディ要素として捉えるのが良いかもしれない。ストーリー構造として、「1930年代を生きた支配人グスタヴ、を振り返る1960年代の支配人ゼロ、の語りをもとに1980年代に本を執筆した作者、の墓の横で本を読む現代の女性」
という多重構造となっている。この構造は、個性的で魅力的なグスタヴが語り部を介して生き続けていることをノスタルジックに表現している。あるいはかなり奇抜な物語として残っていることから、「どこが本当にあったことなのかわからない」という、口伝の性質とある種の恐ろしさまで醸し出しているように見える。この構造は素晴らしいと思う。
他にもたくさんの工夫があるのだろう。気づけばたくさん味が出てくるのかもしれない。映画をもっと見て目を磨きたいと思う。

ちょっとショッキングな場面もあるので小さいお子さんと見るのはおすすめしない。サスペンス要素がそこそこあるので身構えて鑑賞するべき作品。
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