井出

グランド・ブダペスト・ホテルの井出のネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

ウェスアンダーソンの完成された世界。緻密に作られた小さな模型のなかで、くるみ割り人形のようにコミカルに動きを操られる登場人物たち。つまり彼の映画は、箱庭である。その箱庭は、まずは老人の小宇宙であり、それが、作家の宇宙の一部となり、その本を読む人の宇宙の一部となり、それを描く監督の、そして最後に我々観客の宇宙の一部となる。マトリョーシカのように、頭の中、本、絵、模型、映画を通じて私たちの宇宙は拡大し続けている。一方で、マトリョーシカの核の部分にも、一つ一つ、緻密な物語や世界がある。ミクロとマクロ、それは永遠に続いていく。私たちがこうやって、考え、書き続け、誰かに見てもらう限り。
宇宙を構成するのは、造形であり、物語や世界の構成、リズム、色彩、音楽、衣装、カメラの位置、そこに住む人々。そして、それは全て監督のコントロール下にある。それによる安心感は凄まじい。私たちはそれに身を委ねて、目に映すだけ。作品で述べられるように、彼は幻想を見せ続けてくれる。
戦争に翻弄され、奪われた東欧文化への哀悼と、何となくノスタルジアと異文化趣味。メッセージは単純かもしれないけど、戦争はいらないという答えは、複雑に考えるまでもなく、正しいように思う。戦争を知らない世代の認識を、非常によく表しているように思う。
井出

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