いの

うたうひとのいののレビュー・感想・評価

うたうひと(2013年製作の映画)
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うたうひとは、謡う人なのだろうか。東北の民話をうたうように語る人。そしてそれは、「相槌を打ちながら聴く」人があってこそ。長い年月をかけて信頼関係を築いてきたのだろう。語り手と聴き手の理想的な関係。それはまるで右手と左手のようでもある。優しく穏やかに、そっと手をつないでいるかのよう。手をつなぎながら、雪の山も、春の訪れも、ずっと何処までも歩いていくことができる。夜の川での小豆研ぎからの帰り道も、この手があれば怖くない。ユーモアたっぷりな話は、笑いながらきけばいい。何度でも何度でもお話をせがんで、何度でも何度でも聴かせてもらおう。あなたがそこにいてくれてほんとうによかったとおもえるえいが。



語ることと聴くこと。映像は、そのことの重要性を、確固たる意志を持って伝えてくる。気持ちのよい映像。語る人と、聴く人。そして、そこに立ち会って、記録する人。この三つ巴の関係がとてもいい。これは、まさしく「映画」だ。




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移動の際の車中で、聴き手である小野和子さんの考察がある。そのお話を通じて、民話がそこでゐくる人にとってどれ程大切な意味を持っているのかを、わたしは知る。小野和子さんは、聴くということがどういうことなのかを、教えてくださったのだと思う。そして、このドキュメンタリー映画の監督である酒井耕と濱口竜介も、教わったのだと思う。映像からは敬意も伝わってくる。



メモ
・語り手は、伊藤正子さん・佐々木健さん・佐藤玲子さん

・聴き手は、民話研究者の小野和子さん
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