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うたうひとのeulogist2001のレビュー・感想・評価

うたうひと(2013年製作の映画)
3.8
小野和子さんの聴きっぷりには惚れ惚れした。こんなふうに柔らかく穏やかに優しく話を聴いてくれたら、それは民話の語り手もいやがおうにも興が乗り、熱をもって語ってしまうだろう。

表情や合いの手、間合いの取り方。先を勧める言葉。どれも素晴らしい。

聴くひと話す人の合作が民話なんだろうと思った。それは聴き手により語りの質も変わるという事だろう。

猿の恩返しは一見、ひどい話だがそれを嫁いびりに対する隠された意趣返し願望と捉えたところも感心した。物語もそれが置かれている背景を想像しないと隠された本質が見えない事がよくわかる。テキストはコンテクストによって意味が変化するという当たり前が改めて理解される。

また小野和子さんが民話の聴きとりを始めたのは、戦後、教科書に墨を塗らされる体験を経て、田舎にこそ信ずべきなにかがあると思って活動を始めたが、周りからは実際には田園は醜い争いだらけだよと言われたという。

それに対して、良いところだけで付き合うのでも良いのではないか。お互いそういう部分だけで付き合える時間や場は幸せなのではないかと。

その芯の強さにも揺さぶられた。相手のすべてを知り、自分もさらけ出す事が真の付き合いだと考えがちだが、配慮のある距離を取れる事も実は重要な要素ではないかと感じる。

つまり聴き方をどうするのかは、ひととの関係性の構築でもあり、そして関係性とは実は生き方や世界の見方そのものなのかもしれない。

それは対人間に限る話ではなく、モノとの関係性にも通じる気もする。断捨離ブームもその一環だと思う。

極論だろうか?
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