和桜

ほとりの朔子の和桜のレビュー・感想・評価

ほとりの朔子(2013年製作の映画)
3.9
これでもかと日常会話が続けられるのに、その本音が見えてこない。映画において会話は映像と同じくらい情報を伝えてくれるはずのものなんだけど、それが絶対的なものではないことを突きつける深田晃司監督作。
深田監督の作品は映像がもつ徹底した三人称性に打ちのめされる。そしてこれは他人の心の声が聞こえない日常を過ごしている観客達自身が感じていることでもあって、妙なリアルさを感じてしまう。

話し相手が変わる度に正反対な内容を喋っていたり、さっきまで仲良く話していたのにいなくなると陰口のようなやり取りが始まる。こんな姿を映しながら他人のことなんて分からないという諦めではなく、それでも他人にしか見えない姿があるという前向きな考えを示してくるのは面白い。
どれだけ客観的に描こうとしても、何を描くかの取捨選択の時点で主観は混じってる。「主観に先立つ客観はない」ってのは監督自身の映画への姿勢なんだろうな。
前提として映画は誰かの主観で撮られたもので、明確な主義主張がある作品には距離を取った上で見てしまうんだけど、その点を深田監督は猛省して観客に委ねてくる。
監督の言葉を借りれば「表現の持つプロパガンダ性と距離を置く」姿勢はやっぱり好きだな。
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