ひこくろ

受難のひこくろのレビュー・感想・評価

受難(2013年製作の映画)
4.2
ものすごくヘンテコな、それでいて大真面目な映画だった。

テーマは愛とセックス。
当然、性描写も裸のシーンも大量に出てくる。
なのに、それが少しもいやらしくない。
映画がとことんまで大真面目だからだ。

主人公のフランチェス子は、男に求められないさびしい女の子。
だが、彼女はそのことで歪んだり、沈んだりはしない。
淡々と現実を受け止め、なかば諦めの境地で、静かな生活を送っている。
彼女のあそこにおっさんの人面瘡が現われ、口汚く彼女を罵りはじめても、その態度は変わらない。
普通なら怯えたり、絶望したりする場面だろうところを、彼女はひどく冷静に、おっさんを勝手に「古賀さん」と名付け、親しく話をしはじめるのだ。

徹底的に純粋で大真面目なフランチェス子と、歪みまくった古賀との会話は、それが真面目であればあるほど、おかしさが増していく。

「誰にも必要とされない人生」とか「体にできた人面瘡」とか、暗くも怖くもなり得る話が、主人公の真面目さによって、コメディへと変わってしまう。
でも、根っこの部分には切実な悩みがあるから、それは単なるコメディにはならない。
おかしくておかしくてしかたがないのに、そこにはちゃんと愛しさとかせつなさとかが現れる。

彼女が恋した相手と、友人の女性とのセックスに手を貸すところや、その後に訪れるある出来事なんかは、おかしさに満ちていながらも、もうせつなさの極地と言ってもよかった。

一途に「セックスしたい」と願うフランチェス子がどんどん可愛く見えてくる。
皮肉屋にしか見えなかった古賀のやさしさがどんどん溢れてくる。
おかしくて笑って観ていたはずなのに、気がつけばせつなさに包まれている。
ラストのセックスシーンの愛しさと言ったらない。

どこまでも大真面目な、素敵な恋愛コメディ映画だと思った。
ひこくろ

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