アイスランド映画は景色が好きすぎてついつい手に取ってしまいます。もちろん本作も広大な草原と荘厳な雪山の遠景、家もまばらな牧畜の村落の街並みといった美しい景観に事欠きません。
しかしこの作品、タイトルからほのぼの動物ムービーだと思って手を出すと火傷します。というのも、アイスランドという厳しい環境の大地を舞台に生きて死ぬ馬と人間たちが描かれており、性的な場面や痛いシーンやショッキングな描写が多い作品となっていて、「生業として動物を飼って生きることのリアル」を突きつけられるので、動物愛好家的な人ほど観たらショックを受けそう。ちなみに制作陣もそれは想定してるのか、きちんと「撮影のために実際に馬に危害を与えてはいません」とテロップが出ます。
しかも、これら命のやりとりには媚びたようなハートフルさやドラマチックさはなく、群像劇的に描かれる馬と人の間の出来事がひとつの村というコミュニティを通じて緩やかにインタラクトしている様が綴られているだけ。それは脈絡もなくとりとめもない出来事がただ続いているようにも見えるけど、それがある種のリアルさを生んでいるような……それでいてシュールなブラックユーモアがピリッと効いている……そういう映画です。主題はまさに『馬々と人間たち』、それ以上でもそれ以下でもありません。
監督は『たちあがる女』のベネディクト・エルリングソン。パーカッシブでリズミカルな音楽で独特の雰囲気を持たせる演出はこの作品にも共通して見てとれます。