Eike

インセプションのEikeのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
4.1
「ダークナイト」トリロジー、「インター・ステラ―」そして「テネット」とヒット作を連発してクリストファー・ノーラン監督はすっかり巨匠の仲間入り。

2010年に公開された本作はノーラン監督の完全オリジナル作でした。
C・ノーランブランドの作品には映像や演出面で強烈な個性を伺わせるものはさほど感じられないのですが、良い意味でエンタティメント要素とシリアスドラマを絶妙な匙加減でつづる手腕はまさに非凡。

ダークナイトの3部作があれほど荒唐無稽でありつつ、ドラマとして大人でも十分に満足できるものになっていたのは一重にこのバランス感覚の為せる業だと思うのです。

で、本作「インセプション」ですが、お話の「出鱈目ぶり」というか「支離滅裂さ」はハンパではない。
そもそも人から「すっごく面白い夢を見た」と言われて話を聞いてその面白がストレートに伝わるのものか疑問である。
本作にしても、この物語を未見の人に説明しようとすると訳が分かんなくなるのが落ちだと思うのだが、よくぞワーナースタジオはGoサインを出したものだ(2002年の時点で)。
結局完成までに8年もかかった訳ですが。

そんな「他人の夢のお話」に2時間半も付き合わされるのはリスクが高いと思うのだが、本作は見事によくできている。
実際には圧倒的な視覚効果に煙に巻かれてしまう部分が大きいのだが、加えて役者たちの熱演に引き込まれて、ちゃんとドラマとしての満足感まで与えてくれるのだから大したものだと思います。
荒唐無稽な物語を愚直なまでにシリアスに見せる辺りにはノーラン監督の英国人気質を感じます。
おそらく只のアメリカ映画の大作ならもっとクダけたアプローチの作品になっていたと思います。

どう考えてみてもSFネタの物語なのにSF色をかなり意識的に排除している点や、日本のアニメの影響が見て取れたり、後半に完全に「007愛!」なシークエンスを抜けぬけと丸ごと盛りこむあたりの大胆さにも驚かされます。
印象としては正に好き勝手に作りました、といった所でしょうか。
その意味では非アメリカ映画的なアプローチで作られたハリウッド超大作という、ある種の矛盾も感じるのですがエンターティメントという意味ではあっぱれな作品と言えるでしょう。

映画なんてもともとデタラメなんですから娯楽映画なら時にはこれくらい「大胆」であってもらいたいものです。
Eike

Eike