あんじょーら

インセプションのあんじょーらのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
3.2
コブ(レオナルド・ディカプリオ)とアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)は産業スパイ、ただ扱うものがデータではなく、他人の頭の中のアイディアを盗むという特殊な訓練を積んだプロフェッショナルです。ジェラルミンの鞄の中にある装置を使って、そこから伸びるコードを繋げば、他人の夢の中に入り込める技術を持っています。つまり同時に同じ夢を見ることが出来るのです。ただ、誰の夢の中に潜るのかによって、また、その深さによって、環境は変わっていきます。夢の本人は知られたくない大事なモノを、夢の中の金庫にしまってあり、その夢に侵入してくるものを排除しようとする訓練を受けることで、アイディアを守ろうとします。そんな特殊な産業スパイのコブのもとに大企業家で富豪のサイトー(渡辺 謙)が現れ、ある仕事を要請されます。その仕事はさる独占企業の会長がいま、亡くなろうとしている、その息子に頭の中のアイディアを盗むのではなく、企業を分割するように記憶を植えつけ(INCEPTION)てくれないか?と。成功したならば、コブが帰れなくなっているアメリカ入国を実現させることを約束してきます。その為にも最高の仲間を集めろ、と。コブは帰国できない理由があって、そこには根深い問題があるのですが・・・

というのが冒頭の流れです。が、とにかく展開が早いですし、もう少し丁寧に扱っても良いモチーフやら、手順やら、キャラクターやら、盛りだくさんです。産業スパイのやり口や、夢という『何でもあり』の世界をルール付けるのがなかなか難しく、非常にアンバランスな面がかなりあるのですが、強引な銃撃戦や、特異な映像を使って観客の目を釘付けにします。

しかもガジェットとして、「トーテム(夢と現実を区別する為の1人1人違った手のひらに収まるオブジェ)」だの、「キック(強引に夢から醒めるようにする衝撃のこと)」だの、「設計士(夢の設計細かくする人)」だの「調合師(睡眠導入のためのレベルに合わせた調合を行う人)」だのが目白押しでして、もっと細かく丁寧にやって欲しいです。また、アリアドネというネーミングは良かったです、ギリシャ神話ファンとしてはイイですし、実際合ってます。夢の中の夢、の中の夢、の中の夢・・・と延々に続く世界観はなかなか繰り返されるモチーフですが、私は好きなネタです。それにこの不安感が映画を見終わった後の感覚に非常に合うと思いますし。ただ、それだけ映像ではなく、心から落とし込まなければなりませんし、今回の映画でそこまで落とし込まれているか?といえば、ちょっと難しいかな、と感じています。理由は消化不良、です。

これは映画を見た方といろいろ話し込みたくなる映画でして、もし、アメリカのドラマであれば、もっと面白く出来たと思います。まず普段の産業スパイをオーソドックスに見せ、大きなプロジェクトを任され、合間合間にコブの過去を少しづつ見せて行き、仲間を集め、そしていつものスパイとしての情報を盗むという行為から、植えつける(INCEPTION)という難題に立ち向かい・・・と、とても時間がかかります。が、この映画はそれを2時間30分で行うことに無理があるように感じました。だからどうしても消化不良ですし、産業スパイというアクションの大きな流れと、どちらかと言えば主題のコブの過去と、夢、脳、愛の話しの両方に消化不良な感じが否めません。もっと夢の中のルール、銃撃戦を差し込むための説明、モルとの関係、構築した世界、アリアドネとの接点、コブの内面の葛藤、列車のなぞなぞ、様々な事柄において消化不良のように感じました。

ネタバレはなしですが、明らかに私の解釈は夢の話し、です。多層の構築を見せる手際と構成力は素晴らしかったですが、扱うには時間が足りなかった、というかそもそも映画向きではなかったのではないでしょうか?

もっと個人的な意見ですが、モルのキャスティングに不満あり、です。

村上 春樹の傑作「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が好きな方にオススメ致します。ある意味、百科事典棒の話しですから。