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祖谷物語 -おくのひと-のodyssのレビュー・感想・評価

祖谷物語 -おくのひと-(2013年製作の映画)
4.0
【単純な田舎讃美ではなく】

四国の秘境である祖谷をめぐる、ちょっと幻想味のある映画。特に後半は幻想性が強くなります。

老人に拾われて祖谷に育ち、今は美しい女子高校生になっているヒロイン(武田梨奈)を軸に、色々な人物が祖谷をめぐって物語を紡ぎ出しています。

祖谷に育った青年は、祖谷から出て行こうと考える。
それに対して東京から来た青年は、祖谷で農業を始める。だけど挫折するんですよね。僻地で農業をやるって、甘くないんですよ。そのことがよく分かる映画。

また、外国人(欧米系)が祖谷の自然を守れと叫んで、トンネル開通を阻止しようとする。実に身勝手。田舎の自然を守れと叫ぶ人間は、たいてい都会人だとか外部の人間です。実際に田舎に住んでいる人間は、近代的な暮らしを望んでいる。
この場面では、イルカを守れと叫んで和歌山県の太地町にやってくる変な外国人のことを想起しました。まあ、このサイトにもそういう変な外国人に共鳴しているレビュアーが若干一名ほどいますが(笑)。

作品の後半は、祖谷というイメージを心の奥にかかえたヒロインが、後半は祖谷を離れるけれど、結局は(心の中でだけ?)戻ってくるという幻想映画風の展開になります。

また、映画監督の河瀬直美演じる研究所リーダーが後半に出てくるのですが、工業製品こそが自然を守るの役立つのに、それが社会に受け入れられないという矛盾もちゃんと描かれている。

この映画は、祖谷の自然の美しさを単純に讃美するのではなく、以上のような近代化や工業化と、僻地・都会といった現実世界との複雑な関係をそれなりに取り込んでいるという点で、複層的ですぐれた映画になりおおせていると思いました。
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