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バーフライのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

バーフライ(1987年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ロサンゼルスのダウンタウン。感性が鋭いゆえに俗世間になじめず、酒浸りの日々を送る売れない作家ヘンリーは、ある日、自分と同じように人生や社会に背を向け、酒をあおる人妻ワンダと出逢う。愛に無縁で、酒だけが友だったふたりは互いに傷つけあいながらも強く惹かれていく…。

酒に溺れる世捨て人同然の男女が織りなすエキセントリックなラブストーリーの秀作。

浴びるように飲み、毎日のようにバーで泥酔状態になっては客に管を巻き、気障が鼻につくバーテン相手に喧嘩するヘンリー。
時折り思いついたように紙片に詩を書くが、ロクな収入もなく、衛生観念もないドン底の生活習慣を改めようともしない。
見事なまでの社会のクズであり、「汚れ役」もいい所だが、男ってヤツはどこかか、こういう破滅的な生き様に憧れる部分がある。
自堕落な人生なのだが、他人のせいや社会のせいにはせず、自ら望んだモノとして受け入れて生きるカッコ良さ。
清潔な服装であろうが、本作のようにだらしなく太ってボロを着ていようが、ミッキー・ロークは、なぜか自己愛に満ちた破滅型の男が良く似合う。

ある夜、ヘンリーはバーの片隅で自分と同じように酒浸りの訳あり女・ワンダと出逢い、彼の人生は動き始める。
元はキャリアウーマンだったであろう生地の良いスーツとヒールを履き慣れた脚線美。
どうやら酒が原因で夫と別居したようだが、ワンダが酒に溺れた原因は夫にあるようで電話さえすれば、夫がツケで酒代を払ってくれる。
夫の罪悪感に甘えるダメな女だ。
男が信用できないのだろうが、酒が入った時こそ人間の本性が見えるというのはよくあること。
自分に正直なヘンリー心の奥底に、自分と似たモノを感じとる。
酸いも甘いも噛み分けたはずなのだが、情け無い行動に可愛らしさの残るフェイ・ダナウェイの熟女ぶりもまた適役。

酒が取り持つ縁なのだが、酒の力を借りて語らずとも傍らに入れば満たされる関係。
お互いが居れば心の痛みが中和されるのである。
隣に居れば満たされる酒好きなら、そんな飲み友達が欲しいだろう。
肉体関係も収入も関係ない。
お互いが居れば良いのだ。
少し羨ましくも思える関係である。

この映画はそんなダメ人間の烙印を押されたかのような2人の男女の恋愛を、否定もせずに優しく描く。
しかし、決して2人を美化することなく、時に感情をむき出しにぶつかる2人の姿にも、目を背けずにしっかりと描いてもいる。

酒瓶が取り持つ恋は、お互いの孤独を癒やす。
だが、一方でヘンリーは何者かに付きまとわれる。
それは私立探偵で、雇い主は出版会社の女社長だった。
美人社長はヘンリーの才能に惚れ込んでいて、金も身体も貢ぐ。

そんな都合の良い話があるものか?
ここが本作の難点なのだが、そのおかげで本作は大人のお伽噺なのだと分かる。

芸術の中にはギリギリの暮らしの中で産まれる魂の叫びが感動を呼ぶモノが確実に存在する。
ヘンリーの詩はまさにそれ。
金で満たされた暮らしにヘンリーは何の興味もない。
ワンダと女社長の痴話喧嘩を尻目に、貰った金をあぶく銭だと、馴染みのバーの客たちに酒を奢るヘンリー。
またいつもと同じ酒浸りの夜が繰り返される…。

多少なりとも原作者チャールズ・ブコウスキーの人生を覗き見できるロケと役者の好演もあって映画の雰囲気は素晴らしい。
互いに寄りかかりながらしか生きられない、男女の姿をストレートに描いている。

先が見えない2人の不思議な関係性に、酒に魅力を感じない人には、酒に溺れる自堕落な生き方は愚の骨頂だと、本作は楽しめないだろう。
そんなことは分かっている。
心が傷つき、酒に頼るしかない者たちの悲しくも滑稽なファンタジー。
大人のお伽噺である。
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