眠り猫

さよなら、アドルフの眠り猫のレビュー・感想・評価

さよなら、アドルフ(2012年製作の映画)
3.5
 通過儀礼及び十字架の道行きとしての旅

 ナチス占領下のフランスにおける、フランス人少女とユダヤ人少女の出会いと別れを描く、鄭義信作・演出『さよなら、ドン・キホーテ』というお芝居を観た。
 
 これを観て、思い出したのが、ケイト・ショートランドの『さよなら、アドルフ』(原題︰Lore 2012、2014日本公開)である。こちらは、同時代を、ナチスに与した者の娘の側から描き、タイトルの「さよなら」は、ドイツ人少女がそれまで抱いていた価値観と決別することを意味している。

 ナチス高官の娘ローレは、1945年の春、両親が連合軍に連行され、幼い弟妹を連れて、900キロ離れた祖母の家まで南から北へドイツ縦断の旅をする。ナチスの政策に疑問を抱くことなく生きてきたローレだったが、旅の中で、毛嫌いしていたユダヤ人青年に助けられ、ナチスの強制収容所の写真を目にすることで、ナチスの真実に気づき、ナチス礼賛の価値観から脱却していく。
 彼女の名Loreは、教えを意味するが、彼女は900キロの旅を経験することで、父母の教えから脱するのだ。900キロの旅は彼女にとっての通過儀礼となっている。
 
 さらに、幼い弟妹の親代わりを務めるローレ、手持ちの金目の物が底を尽きると、売春して食料を手に入れようとするローレは、人類の身代わりとなって十字架につくという自己犠牲を払った、イエス・キリストのパロディとなっている。ローレの旅は、イエスの十字架の道行きでもある。

※ドイツ社会史・女性史研究家の姫岡とし子さんの映画評「『さよなら、アドルフ』とその背景」は、この映画の社会的背景を的確に押さえており、おすすめです。ネットで読めます。
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