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北(ノルテ)―歴史の終わりのTenKasSのレビュー・感想・評価

5.0
カメラが映しとる均質さというのが、ラヴ・ディアスの映画ではどうも余計に際立ってくるような感覚があって、それを見つめていると普段の生活では考えなくていいようなことをふと考え始めてしまう。
何となく映画というのは物語があって、主人公みたいな人がいて、その人を中心に映像も音も編集、構成されて作られるものとして無意識に理解しているのだけど、その枠組みがどんどん崩れていく。一応主人公のような人はこの映画には2人ぐらい存在しているのだけど、悉くこの人たちが存在していなくてもカメラが映し取ったそれ以外のものは、何ら変わらず存在し続けるだろうなという感覚に陥る。映画が終わっても、フレームの外にも、世界と時間は続いているという感覚。それは誰かの人生が終わろうと宇宙が存在しているという当たり前過ぎて考えもしないことと重なってくるように思う。
ファビアンが極端な理想のために衝動的に貸金家を殺したり、そのせいで神に祈ったり、姉を犯したり、愛犬と遊んだ後惨殺したりするのだけど、そんなことをしても世界が変わらず存在し続けていることに何だかゾッとする。同時に刑務所の中でも善行を貫くホアキンの行為がもたらしたものの小ささにも唖然とする。「罪とは?」「罰とは?」という普遍的な疑問が立ち現れるときに、ロングショットはかくも残酷に世界の強靭さと個人の非力さを淡々と示すのかと驚嘆した。
ていうかカラー。
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