てっちゃん

トム・アット・ザ・ファームのてっちゃんのレビュー・感想・評価

3.9
かなりのお久しぶりのグザヴィエドランさん作品。
しかも本作は異質な作品ということ。
ドランさんと言えば、ヒューマンドラマ作品のイメージがあるかと思うけど、本作はそういう要素はありつつも、メインはサイコサスペンス。
ということで、お久しぶりなのも重なり少々緊張しながらの鑑賞開始です。

うん、これなんか惜しい。なんか惜しい。が続いていってて、さあくるかくるか、が続いて、あらま終わってしもうたわ、、ってなった感じ。
それでも確かにあるのは、必要以上に語らせることなく、説明なんかもなく、人の心情や気持ちの変わり様を読み取っていく、極上のヒューマンドラマはある。

ドランさん印のかっこいいカットや、おしゃれ演出もあるけども、本作にポップさは無い。
主人公が赴く地は、閉鎖的だから陰湿な空気が漂っていて、抑圧されているかのような居心地の悪さ。
それでも、主人公はその地から”離れられない”。

離れようと思えば、離れられる。
最初は良心と罪悪感から離れようとしない。
それが、段々と変わってくる。
離れられなくなってしまうのだ。その変化の要因と、それを取り巻く人物たちの動きに注視すると面白いかも。

主人公は、ストックホルム症候群みたくなっていくのだけど、彼のこれまので経緯(詳細は説明されないから想像するしかないのだけど、その余白が考えさせることに繋がる)から踏まえると、彼はフランシスから逃げられなくなって、冒頭で出てくる”君の代わりを見つける”ことになっていく。
彼は誰かに愛される(それが勘違いだとしても)ことを求めているのだ。

フランシスとその家族も印象的。
DVクソ男フランシスの母親に対しての振る舞いが印象的。
DVクソ男なのに母親に対しては、明らかに愛情を求めている(暴力でしか繋ぎ止め方を知らないフランシスが母親に対してはそれを求めている)。
彼がこんな街にまだいるのも、母親と同居しているのも、彼は母親から愛されたいからだ。

この2人の思いが大まかには共通しているので、2人の関係性が発展していき、お互いが依存し合っていく。
主人公は抑圧された側から自分を解放することができた。
フランシスは抑圧する側かと思っていたら、されていた側であり、自分を解放することができない。
この対比が非常に上手いこと描かれている印象だった。

出てくるシーンにそれぞれメタファーを感じさせ、それをカット割りでも意味を持たせ、音楽で意味を持たせ、画面比で意味を持たせる。
なんとすごい才能なんだろうか。
しかも本作は、忙しすぎたから短期間で製作したんだって。
それでこの完成度か、、、ドランパイセンえげつないです。
てっちゃん

てっちゃん