MikiMickle

トム・アット・ザ・ファームのMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.5
恋人ギョームを亡くしたトムは、葬式のために彼の実家の農場に向かう。しかし、ギョームは同性 愛であることを隠しサラという彼女がいると母に嘘をついていた。ショックをうけるトム。一方で、それを知るギョームの兄フランシスからはそれを他言するなと高圧的な態度をとられる。
農場の手伝いをするうちに、トムはギョームの攻撃的な態度に捕らわれていくのだった…

オープニングの、紙ナプキンに青いペンで書き綴る手紙。滲むインク… 車の中で聴く音楽。まさしくトムの悲しみの心境をあらわしていて、ここだけでのめり込んでしまった。

高圧的で暴力的なフランシスへの恐怖に怯えながらも、何故トムは農場に居続けてしまうのか。戻ってしまうのか。
それはフランシスにギョームを重ねるからだ。
いくら暴力を振るわれても、トムには喪失感を埋める存在と、自分の存在性を確保する場所が必要だった。

帰ろうとするトムを、有無を言わさず引き留めるフランシスの心境はなんなのか。
それもまたトムと同じで、ずっと孤独だった男の抵抗なのだ。

この映画で、ギョームの姿は曖昧ではっきりとした人物像は見えてこない。何故死んだのかもわからない。
そんな妄想のようなギョームの影に囚われる3人。

農場という閉ざされた環境の中で、孤独と喪失感と悲しみと恐怖は、いつしか狂気を生み出す。

トムに、ギョームの恋人のふりをしてくれと頼まれてやってきた同僚のサラに対して、農場のことを嬉しそうに自慢するトム。
ここには、フランシスには僕が必要だと……
「洗脳」という言葉が頭をよぎる。恐ろしかった…

そして、恐怖の中の官能。
キスをするわけではない。愛を表現するわけでもない。ただただ、暴力と威圧だけなのだが、
そんな中、二人でタンゴを踊るシーンがある。フランシスは農場の文句を言いながら踊るような状況なのに、トムの表情やアップが非常に官能的だった。
そして、フランシスに首を絞められるところは最もエロティシズムを感じた。
死と愛。
歪んだ愛。

トムは、ギョームの過去もフランシスの過去も最後までは見ようとはしない。全てを明らかにはしない。
しかし、徐々に垣間見れていく隠された謎。私の想像ではあるが、フランシスとギョームの関係もただの兄弟ではなかったのだと思う。
歪んだ愛だったのだと。

ラスト
車を走らせ、町につくトム。流れる夜の街並み。若者たち。流れる音楽。
止まる車。ハンドルを握りしめる手。一瞬の青信号。

最後の最後まで、狂気と、言い知れぬ緊張感がずっと続きました。

ストックホルム症候群という題材を使い、
同性 愛者の苦悩を扱いつつも、人間の繋がりを考えさせられる映画でした。

喪失感と悲しみと孤独・愛・暴力・共依存…

監督と主演、若き天才グザヴィエ・ドラン。

アスペクト比が変わるところが2箇所。
中盤のトウモロコシ畑と、後半の森で追われるシーン。画面の上下がグーっと狭まります。ビジュアル的に、追い詰められたトムの恐怖をあらわしていています。
少ないセリフながら、ファッションや二人の寝ているベッドの配置の変化でも心情や関係性を表現しており、ドランの手腕を感じます。
MikiMickle

MikiMickle