げげげんた

NOのげげげんたのレビュー・感想・評価

NO(2012年製作の映画)
3.8

1980年代のチリの軍事政権の可否を問う選挙キャンペーンに臨む広告プロデューサーの話で、実話に基づいている。

ひょんなきっかけから軍事政権への反対派のキャンペーンをプロデュースすることになった主人公レネ。
学習性無気力から軍事政権に勝てるとは思っておらず、今回のキャンペーンは啓発のきっかけにしようと考える周りのメンバーの思惑とは裏腹に、本気で勝ちに行く」ための広告を作る。
そうして出来上がった、ハッピーな未来を描いた広告は、「軍事政権の人権侵害を告発したい」という反対派のメンバーからは大不評。

でも正論を語ったり、人権侵害の様子を見せても大衆に響かないのもまた真実。大衆の関心はそこにはなくて、目の前の生活で手一杯だし「困っていない」と答えるメイドのおばさんが典型的。現状維持バイアスが強い中で異議を唱えるほうが難しい。

そのような広告を展開していくうちに最初は7割の人が「無関心層」だったのが次第に波紋を呼び…というお話。

そうした中で大衆を動かすには期待を抱かせること、シンプルでキャッチーなメッセージを伝えることの重要性をよく描いていた。
一方でその強さとともに、誰が何の目的のために使うかによっては大衆を扇動できてしまう危うさを感じる。もし例えばいまの日本で改憲の国民投票が行われたら、NOチームが使ったようなキャッチーなフレーズと有名人を利用したキャンペーンで「なんとなく良さそう」と思わせることをしそうだなと思った。

また、妨害工作や監視行為、平和的なデモへの乱入なども鮮明に描かれており、文字通り自分や家族の命を危険にさらしてまでもやり遂げる必要があったことへの強い決意や覚悟を感じた。

今回は大学院の人権専攻の企画で学内上映会があり、学内のシアターで鑑賞したのだが、上映後の先生や学生のトークもとても刺激的だった。同じような状況だったが同じような結果にはならなかった国の話や、チリが今どういう状況なのかなどを聞くと、権利や平等や自由をめぐる闘いは1勝99敗ぐらいしんどいものだと思わざるを得ないが、諦めないことが何よりも重要なのだと思う。
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