Votoms

7番房の奇跡のVotomsのレビュー・感想・評価

7番房の奇跡(2013年製作の映画)
4.2
知的障碍者の親子の話というのは他にも沢山ある。その中でも本作は上手い言葉が思いつかないほど考えさせられる描写が幾つかある。第一にこれは知的障碍者の受刑者がなぜ存在するのか、警察の捜査、尋問の方法に大いに問題があるのではという問いかけをしている点が挙げられる。知的障碍者の権利擁護は日本においても脆弱であることが指摘されているが、彼・彼女らは警察による恣意的な誘導にかかりやすい側面がある。本作品はこの点をよく描いており、主人公の父親をろくな捜査もせずに犯罪者に仕立て上げる杜撰で横暴な警察組織という部分を抉り出している。

韓国における刑務所の生活は詳しくはないが、ところどころファンタジックな要素があるのはあまり暗くなりすぎないという意味では良かったかもしれない。また、一緒に暮らす7番房の受刑者の面々は、とても魅力的な個性のある人達だ。主人公とその娘に接していく描写はなんともコミカルだったし心温まる。

個人的に興味深かったのは刑務官の描き方だ。民主化闘争映画が象徴的であるように、韓国映画においては警察は体制的な悪を体現したものと描かれやすい。本作品においても自分の娘を殺された(と思い込んでいる)警察庁長官をはじめとし、警察は横暴で抑圧的で隠蔽体質で最低最悪の存在のように描写されている。一方、刑務官は極めて同情的な描かれ方をしており、特に(過去に自分の息子を受刑者に殺害された)保安課長は当初は主人公を酷く嫌悪していたが、接していく内に彼の無実を確信し、協力者となってくれるように描写されている。刑務官の描写は『1987年 ある闘いの真実』でもそうだったように、体制側に属しながらも正義や良心との葛藤に悩まされる存在として描かれており、韓国映画の特徴的な側面と言えるかもしれない。本作品においても、無実を確信している人間を処刑しなければならない葛藤が色濃くでている。そもそも一般論として刑務官は自分の意に反しても命令に従って人間を処刑しなければならず、その精神的負担の度合いは大きいわけだが…。

最後に付け加えると、とても素晴らしい作品だと思う。個人的に韓国映画は良作が多いという印象なのだが、本作品もその一つに挙げられるだろう。
Votoms

Votoms