深獣九

邪願霊の深獣九のレビュー・感想・評価

邪願霊(1988年製作の映画)
3.5
『邪願霊』は、日本のモキュメンタリーの先駆けとと言われている。Jホラーの元祖とも。
いまではこの手の作品はごまんと作られており、最近で言えば『女神の継承』は世界を恐怖に陥れているようだ(まだ観ていない)。もう少し前だと『コンジアム』か。最新技術を活用し世相を見事に反映させたプロットは、モキュメンタリーの最先端と言えるだろう。
それに比べれば、本作の舞台はテクノポップやウォークマン、レコード店挨拶回りが当たり前の時代。古いを超えてもはや記録映像である。つまり私のようなもうすぐ3回目の成人式を迎えるおっさんが、ノスタルジーに鼻をすするような作品であると言えよう。

ところがどっこい、この映画は面白い。
なぜか?

モキュメンタリーは、基本ずっとカメラが回っている。さすがにそこは止めるでしょ? というときにさえ撮影が続いているときもある。まあそこには目をつぶるのがマナーというものだけれど。ちょっとしらける。

さて本作は、アイドル売り出しプロジェクトの裏側を描くドキュメンタリー番組撮影の様子を描いている。登場する撮影スタッフは、みなプロである。だから現場で照明が落ちてきても自動車が爆発しても、スタジオが火の海になろうともカメラを回し続ける。プロだから。つまりそこには必然性があるわけだ。それが私を安心させる。ツッコまなくて済むからだ。私が偏屈なだけかもしれないけど、とても大切なことなのだ。

その他には前述のとおり、懐かしいグッズやシーンが彩りを添えてくれた。
レコード店に並ぶ佐野元春のライブアルバムに、目頭が熱くなった。元春は私の青春だったのだ。このアルバムも擦り切れるほど聴いたっけ。脳裏に蘇る思い出は、黒歴史過ぎて語れない。思い出さなければよかった。

KUROさんや吉田照美氏が本人役で登場したのもボーナスだったし、水野晴郎氏がラストを締めくくるのもノスタルジー全開だった。あれは本当のエピソードだったのだろうか。興味深い。

怪異のせいでお蔵入りとなったドキュメンタリーも、普通に面白そうだった。
あのキャスターはなぜ霊障を感知していたのか。謎のままで終わらせたっていい謎もある。

ホラーファンの嗜みとしても、また単純に面白いホラーとしても観る価値はあると思う。ぜひ。
深獣九

深獣九