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ある精肉店のはなしのodyssのレビュー・感想・評価

ある精肉店のはなし(2013年製作の映画)
2.7
【ちょっと惜しい】

先祖代々精肉店を営んできた家族を映し出したドキュメンタリー。

単に肉を売るだけでなく、近くの屠殺場でみずから牛を屠ってきたところがミソ。屠殺場も近代化の波に洗われていて、大規模でオートメーション化された工場が普通になり、この店が利用してきた屠殺場も2012年限りで廃止になる。その直前に撮影されています。

牛の眉間をハンマーで叩いて気絶させ、それから素早く血を抜いたり革を剥いだりする作業が見もの。また大家族であるこの一家の団らんの模様なども興味深い。

というわけで悪くはない映画なのですが、1時間50分もかける必要があるのかという疑問が。肉の腑分けや、内蔵の利用の仕方などについては、もっと詳しく、シロウトにも分かりやすく説明を加えながらやってくれたらと思いましたし、流通の問題や時代による商品の好みの変遷など、肉屋さんにまつわる話題は他にもあるだろうと思うのですが、その点が物足りない。見終えても、よく分かった、という気持ちにならないのです。

時間を稼ぐためか、次男の太鼓作り(牛の革を利用する)だとか、祭りの様子だとかにも時間を割いていますが、そのせいで作品がやや拡散的になってしまっている。

それから、被差別部落問題との関わりも少し触れられていますけど、この点でも、例えば昔と今の違いなど、言及すべきところは色々あろうのに、表面的な扱いに終わっていますね。

最後のテロップを見ると、佐高信だとか田中優子、或いは部落解放同盟だとか週刊金曜日だとか、その方面の人々や団体の名が挙がっています。ただ、この映画そのものは、そういう方面のプロパガンダでは決してなく、肉屋さんの様子を淡々と描き出している、いい意味で地道な作品です。それだけに、この職業の細部を描くことに徹してくれたらという気持ちが残りました。
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