マーフィー

ある精肉店のはなしのマーフィーのレビュー・感想・評価

ある精肉店のはなし(2013年製作の映画)
4.8
2023/11/29鑑賞。
纐纈あや監督、太田恭二さん(元人権博物館学芸員)、辻本一英さん(阿波木偶箱まわし保存会)のトークショー付き。
急遽、阿波木偶「三番叟まわし」の門付けも披露していただいた。
そして客席に北出昭さんがいらっしゃっていてさらに驚き。

公開からちょうど10周年の日、しかも「いい肉の日」に見ることができてよかった。


さっきまで生きていたものが、肉になっていく。
見ている自分は
皮を剥ぐまでは生きている動物として、
皮を剥いだ後から「肉」として見ていたと思う。
いや、意識的ではない。そう感じないときつかったのかも。
防衛本能なのか、私の頭では
外から見えている外皮と内側の肉を文字通り切り離すと同時に、
無意識に「生きていたもの」と「食べ物」とを切り離してしまっているのかもしれない。
しかしそこが地続きであることは紛れもない事実であり、
偏見や差別を許せない自分の中にも無意識に見ないように蓋をしていた現実があったことに、
冒頭の屠畜のシーンからいきなり直面した。
『私のはなし 部落の話』、『シン・ちむどんどん』、『福田村事件』、『月』、『過去負う者』。
今年見た映画で感じたことと何もかも同じだ。


ただこの映画は上記の作品たちとは決定的に違う。
それは差別や社会問題を中心に描く映画ではないこと。
部落差別問題はこの映画を語る上で欠かせない要素だが、
肉屋の日常や地域のお祭りの風景も、屠畜や部落差別など私たちが見ないようにしていることも全てひっくるめて、北出家の日常の中に自然に存在している。ただただその様子が収められている。
トークショーで仰っていた通り、北出家の生活の中には日常的に闘いがあるという感じ。
北出家の日常は何とも味わい深く愛おしいのだが、
その中に闘ってきた歴史が自然にある。これが素晴らしい。

普段見ていないものに直面する映画なのに、
定期的に見に帰りたくなる映画だった。
この見に帰りたくなる感じ、思い返すと『人生フルーツ』を見た時と同じだった。

淡々と日常が流れる映像、道具や作業の音の心地よさ、人々の楽しそうな会話、
そしてそこに在る部落差別の歴史や屠畜の映像に時々目を見張り考えさせられる。
啓発映画では成し得ない、すごいバランスの映画だと思う。

DVD化する予定はないとのこと。
見れてよかった。








撮影の裏話はめちゃくちゃ面白かった。
まさか牛2頭みんなで買ってたなんて。
マーフィー

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