カタクチイワシ映画レビュー

それでも夜は明けるのカタクチイワシ映画レビューのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.9
自由の身でありながら拉致され、12年もの間奴隷生活を強いられた黒人男性ソロモン・ノーサップの伝記の映画化。


黒人奴隷制度を描いた映画はどれも観るたび心苦しくなりますが、今作は久々に心底肝が冷えました。
北部の自由黒人としてそれまで順風満帆に暮らしていたのに、突然全てが一変する。目覚めると鎖に繋がれ、板と鞭で打ちのめされ南部へと船で連れ去られる恐ろしさ。人間性を剥奪され家畜扱いされる日々。文字通りそこには人権なんてありはしない。
ほんっっっと暗い気分になりました。マジでどっちが人間やねんって感じ…。一応タイトルの時点でラストに主人公のソロモンは救い出されるであろうことは分かっていても、結局これって何も解決していないんだもん。ハァ〜、やーよねぇ…。

一番ゾッとしたのはやっぱり中盤の首吊りシーン。農園の監督官(ポール・ダノ)の怒りを買ってリンチに遭い首を吊られる主人公。のどかな美しい風景の中に吊られた人間。周囲の人も知らん顔だったり興味無しって感じだったりで最高に嫌な感じ。とんでもない構図の名シーンだと思います。この映画、画が美しいのがまたねぇ…。

役者陣は流石、全員素晴らしい演技。キウェテル・イジョフォーは主人公の難しい役を見事に演じ切ったと思うし、最初の主人役ベネディクト・ガンバーバッチも然り(お前らはよ魔法で闘えやと思って観てました)。ルピタ・ニョンゴは今作からブレイクしましたし、ポール・ダノのこういう役は本当に最低(褒めてます)。そしてブラピの千両役者っぷり。中でもやはりマイケル・ファスベンダーが占めるウェイトは大きい。彼だからこそあの役の人物像に更なる厚みが出たんじゃないでしょうか。

この映画、長回しやクローズアップを使った独特の演出が多く、そのどれもが印象的でした。スティーブ・マックイーン監督作はこれまで未見で、続けて一つ前の『SHAME -シェイム-』も観たんですがこういう演出・作家性の監督なんですね。そちらも凄く面白い良い映画で、個人的にこれから注目していきたい監督さんになりました。


とても生半可な気持ちで観れる作品ではないかもしれません。ですがこの作品に監督が込めたテーマやメッセージは、当時のアメリカだけの問題ではない、この現代の世界にも通ずるものじゃないでしょうか。是非、オススメです。