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それでも夜は明けるのkomoのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
4.5
ヴァイオリニストのソロモン(キウェテル・イジョフォー)は自由黒人であるにも関わらず、罠に陥れられ奴隷商に売られてしまう。
ソロモンを買ったフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は幸いにして温厚な男であったが、同じ農園にいたティビッツ(ポール・ダノ)からは激しい迫害を受けるソロモン。その光景を目にしたフォードはソロモンの身を案じ、彼を自分の農場から手放すことに決めるが、次に売られた先には残忍な性格を持つエップス(マイケル・ファスベンダー)という男が待っていた。


【今なお残る歴史の爪痕】

先日、名作『風と共に去りぬ』が米国の動画サービスにおいて規制の対象となりました。南北戦争以前のアメリカ南部を讃える作品であり、そのテーマ性が黒人差別の意味を内包しているから、といった理由です。
映画というのは創られた時代の世相や人々の思想を後世に残してくれる遺産であるので、あとの時代になって修正や規制を行うことに私は反対です。
ですが本作を観て、奴隷制のあった時代に黒人が受けた仕打ちを目の当たりにしてからは、その考えに自信を持ち続けることが難しくなりました。
『風と共に去りぬ』は自分にとって好きな作品であり、この世から消えてほしくないという思いは変わらないのですが、少なくとも所構わず大声で絶賛して良いとは限らない、という考えに至りました。

肌の色や生まれた時代が、人間の運命を明確に分けてしまう。
奴隷とされた人々は朝起きてから眠るまでが重労働で、時には謂れもない折檻を受け、わずかな安息や幸福を求めることさえ許されない。
あまつさえ、自由黒人であったはずのソロモンまでもが卑劣な手段で売買されたというのは紛れもない実話であり、そんな世の中では何も信用できなくなります。

ソロモンを演じたキウェテル・イジフォーの、聡明で希望を信じる強い眼差しに胸打たれます。しかし邦題からして彼が救われるということは察することができるので、だからこそ彼の行動は、心のどこかで安堵を抱きながら観ることができたのかもしれません。
しかしソロモンの物語と並行して描かれるのは、ルピタ・ニョンゴ演じるパッツィーの残忍な日々。彼女はソロモンと異なり、最後まで救いがありませんでした。
誰よりも綿花を摘み、陵辱にも耐えてきた真面目な彼女が、何の落ち度もなく言いがかりにより鞭打たれます。希望を信じて観ていた観客の心証を責め立てる展開……つらかったです。

ベネディクト・カンバーバッチが演じた人物は人格者でしたが、疑いもなく黒人を購入しているという点では価値観の根底について考えさせられます。

もし現代日本でも奴隷制が身近にあり、人が人を屈させる光景が目の当たりであったなら、私もそこに疑問を抱かない人間になっていたのだろうか。

『それでも夜は明ける』は美しい邦題ですが、ソロモン以外の暗闇に囚われたままの奴隷のことを思うと複雑です。
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