うめ

フィフス・エステート 世界から狙われた男のうめのレビュー・感想・評価

3.1
 ベネディクト・カンバーバッチ主演作。ウィキリークスのジュリアン・アサンジと彼に惹かれてともにウィキリークスを運営したダニエル・ドムシャイト=ベルクを中心に、2010年に起きた一連の文書告発について描いている。

 本作は経済誌フォーブスにより、2013年に封切られたハリウッドのメジャー映画作品の中で「最も製作費を回収出来なかった作品」と言われているようだが…それもどこか納得してしまう出来映え。ストーリーと演出に大きな問題がある。

 そもそもウィキリークスやスノーデンなど、インターネットによる情報や監視をどう扱うかという問題は未だに解決に至っていない。そうした現在進行形の問題に対してどのような視点に立ち何を描くかが、作品を作る上で重要なポイントになってくるが、今回はそうした点が一向に見えてこなかった。ダニエルを軸にしてウィキリークスの悪事を暴きたいのか、ダニエルとジュリアンの人間的な部分を描きたかったのか、それとも客観的に告発の顛末を描きたかったのか…どれも私には中途半端に感じた。

 そこでさらに問題なのが、肝心のウィキリークスの告発の意志つまりジュリアンの告発する理由やジュリアンの言動が終始、矛盾している点。終盤それが原因で、ジュリアンは過去に犯した過ちを繰り返す。そこに至るまで、全体が盛り上がっていないのも相まって、「そりゃ、そうなるだろうよ」という呆れた気持ちを持たざるを得なかった。

 また事の顛末を追っていこうとしても、後述する演出もあってか、速い展開のため、ややついていけない。ウィキリークスについてある程度知ってから観るべきかもしれない。

 そして演出が…ダサい(笑)どこかで見た事あるような字幕やパソコン内に多数のジュリアンがいる描写は特に駄目。また画面切り替えが一つのシークエンスに多過ぎるのと画面がよくぶれるのとで、酔うほどではないが観ていて少し疲れる。あの画面だと俳優がいくら良い演技をしても、観客に届かないだろう。ハッカーの素早い仕事がスタイリッシュに描かれている訳でもなく、人間が丁寧に描かれている訳でもない…一体どこに注目して観たらいいものか。

 ただそんな作品にも関わらず、キャストが豪華。ジュリアン役のベネディクト・カンバーバッチとダニエル役のダニエル・ブリュールはもちろんのこと、その他に(代表作等を記すと長くなるので名前だけ挙げると)、アリシア・ヴィキャンデル、モーリッツ・ブライプトロイ、デヴィッド・シューリス、ダン・スティーヴンス、スタンリー・トゥッチ、ローラ・リニー、アンソニー・マッキー…と注目若手俳優からベテラン俳優まで出演している。多少、俳優の演技を堪能できるシーンがあるので、そちらに重点を置いて鑑賞してもいいかもしれない。

 あと個人的には、ベネディクト・カンバーバッチにそろそろ「普通の人」の役を演じて頂きたい(笑)こう言うと語弊があるかもしれないが、今までカンバーバッチが演じてきた役はどうも変わった役(はっきり言うと変人、奇人(悪い意味はありません))ばかりで、食傷気味。俳優には色々なタイプの役をやって欲しいと私は考えているので、こうした変わった役のイメージがついてしまう前に平凡な一般市民の役などを演じて欲しいのだが…アメコミの役が控えているんですよね…ちょっと心配です。

 今作を鑑賞するメリットとしては、インターネットの匿名性や監視という問題を改めて考えるきっかけぐらいにはなること。私は作中でも言及されているジョージ・オーウェルの『1984年』を早く読まねばなぁと思った。

 
 あ、共にドイツ映画で映画界に出てきたダニエル・ブリュールとモーリッツ・ブライプトロイが共演しているのが嬉しかったなぁ〜。
うめ

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