このレビューはネタバレを含みます
スターウォーズを心の底から好きだと思ったのは“フォースの覚醒”が初めてだ。
このシリーズは456123、123456、456123456など様々な順番で見ることが推奨されているけれど、私の初めてのスターウォーズは小学生の時、映画館で観た“エピソード3/シスの復讐”だ。しかしながら、原体験である3も、その後見た1,2,4,5,6も私にとっては『普通の面白い映画』だった。中途半端なところから見始めたからというのが大きいが、そもそも自分の世代のものではないと思っていた。
その後新作が作られるとは思わずに生きてきたし、“エピソード7/フォースの覚醒”が始まる瞬間まで『残念だけれど、スターウォーズが私の中で大きな存在になることはないのだろう』という思いでいた。
そんな具合に冷めていた私の前に、同年代の主人公レイ、フィン、ポー、BB-8、カイロ・レンを伴って現れ、神話はまだ終わっていないと信じさせてくれた感慨は如何ばかりか。
一昨年の12月、新文芸座の“インサイド・ルーウィン・デイヴィス”と“フランシス・ハ”の二本立て上映でアダム・ドライバーを認識した。
『あの声がめちゃくちゃ低くてカッコいい俳優、両作品に出てたけど注目株なのか？』→『えっ、この人がスターウォーズに出るの？しかも悪役か。背が高いしあの声なら迫力も出るだろうし、楽しみだな。』
と、それはそれは期待をし、スターウォーズにそこまで興味がなかったのに初日に観に行った。あのマスクをとるまでは、かっこいい悪役カイロ・レンであることを信じて疑わなかった。
そんな期待とは正反対に振り切れた役柄に対し、観賞後は『ヒゲ無しも原因だと思うけれど、多分声高めに演技してるからメンタル豆腐の童貞っぽくて魅力半減だ。スカイウォーカーの血はこの代で終わりだな。』などとひどい感想しか持てなかった。
しかし、ストーリーを完全に覚えた3回目からようやく慣れて、その挙動を楽しむ余裕が出てくると、それ以降はもう彼がマスクを外すのが楽しみでしょうがないというくらい、ハマってしまった。
何せ、寄りで見ると目だけがキラキラしていて不気味、フォースを使うときは自信家だが怯えを隠さず、下からのアングルでは情けなく、引きで見るとモアイ像っぽい、そしてセーバー戦での憤怒と、いい意味で顔が作画崩壊しているのだ。どのシーンを切り取っても違う表情をしているのが、彼の心の弱さを表しているようで、一作目から光に誘惑される悪役を思わず『負けるな!』と応援してしまった。
特に「ハンソロはもういない!」と叫び、剣を引き抜いたレイを見て唖然とする表情は、過去の因果を唯一背負わされた故の悲哀を感じさせられ、7で最もお気に入りのカットだ。
“フォースの覚醒”の世界では、レンのマスクは生命維持装置ではないし、トルーパーのマスクはガスを防げない。では、何の役割を果たしているのかと言ったら、表情を隠しているのではないか。
ベンであった男は、マスクをつけることでその焦りを隠し、カイロ・レンとなった。
それとは真逆に、FN-2187であった男は、マスクを外すことでその怯えを露にし、フィンとなり、裏切り者となる。
自分が死なないために逃げたい、レイにも死んでほしくない、レイを助けたい、と成長していき、同時に逃げ場も失ったフィンが、レンの「裏切り者」との呼び声に立ち向かい、倒れる。
過去にいた親は去り、現在にいるフィンは迎えに来た。レイが未来にいるはずのルークを追いかける覚悟を決めたのはひとえにフィンがいたからだ。
そして、彼の戦いに報いるようにレイがセーバーをとり、自分が待ち望んでも戻ってこなかった親を殺したレンに、怒りと共に立ち向かう。
ここで初めて、修行をしていないにもかかわらず、セーバーの扱いも、射撃も、棒術も、操縦も、フォースも、強すぎるレイが怖いと感じた。レイをスノークの元に連れていかなければならない、殺せないレンに、大地が割れなければ止めを刺していたとしか思えない。
7で強いフォースを持ちながら、ライトサイドへの誘惑に悩まされたレンと同様に、強すぎるレイもまた、今後のエピソードでダークサイドからの誘惑に悩まされるのだろうか。
一対一の戦い、十字型のセーバーを雪に押し付けて消そうとするレイと、それに抗おうとするレンの二人共が赤と青の2本のセーバーを握っているようにも見える、ポスターの構図に近い競り合いが今後の彼らの運命を暗示するようで、エピソード8,9を見届けたい、見届けなければならないのだと感じさせられた。
文章にもならなかった雑感
・フィンが好き。フォースが使えないのにセーバーで立ち向かっていく所がかっこいい。早く目を覚ましてほしいぞ。
・ミレニアムファルコンが飛んで行くのを見ながら「That s mine!!」と叫ぶアンカー、腕の振り方がとてもサイモンペグっぽい。
・IMAXだとハックス将軍の演説がうるさい。ドルビーアトモスだとうるさくない。極爆上映ならきっとうるさいのでそこでも見たい。
・7はミスリードで、レイの父親がルークじゃないと面白いなと思う反面、スカイウォーカーの血がカイロ・レンで途絶えるというのは辛いので、クローンでも脱童貞でもなんでもいいから彼には頑張ってほしい。
