まぬままおま

夕闇ダリアのまぬままおまのレビュー・感想・評価

夕闇ダリア(2011年製作の映画)
4.0
池田千尋監督作品。

なぜだ…なぜこんなに評価が低いのか…面白い作品です。

本作は、花屋に勤めるかなえが、恋人がいると知りつつも同僚の大谷と性愛関係になる物語である。そしてかなえには彼の恋人・由紀子の「霊」がみえはじめて…。

ダリアの花言葉は「優雅」「気品」「栄華」「気まぐれ」「裏切り」である。その花言葉通り、彼らは華やかに戯れ、気まぐれに愛を交わし、互いを裏切るのである。

かなえは「可哀想な」女だ。大谷には恋人にしてもらえず、身体だけの関係でずっと独りだ。けれどそんな彼を振り切るほどには自立はしていなくて、求め続けてしまう。さらに由紀子との関係である。大谷を手放すことは一切せず、彼女は華麗にバレエを踊るのである。彼女はしがない花屋のかなえとは対照的に社会的な栄光も得ているのである。

だから彼女に由紀子の「霊」が現れることもおかしくない。この「霊」について説明が一切ないため批判的にレビューされている。しかしそれが霊なのか、幻影なのかそんなのはどうでもいい。おそらくかなえの実存的な不安が由紀子に投影された「華麗で不気味な何か」なのである。

かなえは「華麗で不気味な何か」を怖がり、怒り、戯れ、裏切る。それは彼女が自身の不安と葛藤している有様であるだろう。そして彼女は不安に飲まれるのではなく、生身の由紀子=他者と対峙するまでになるのである。

だがかなえは由紀子に何も言えない。「華麗で不気味な何か」は未だ現れ続ける。大谷との関係も変わらず続く。だけどかなえは自らの手で車を運転し始める。それは運転を任せていた大谷へのささやかな裏切りであろう。彼女の運転は下手だ。しかし主体性を取り戻したかなえの行く末を私は安心して見届けることができるのである。