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あまり期待するなのSariのレビュー・感想・評価

あまり期待するな(2011年製作の映画)
3.5
巨匠ニコラス・レイ生誕100年を機に、妻であるスーザン・レイによって制作されたドキュメンタリー作品。

◾️『We Can't Go Home Again』(僕たちはもう帰れない)1973年製作は、ニコラス・レイ幻の遺作。レイが晩年に講師を務めていたニューヨーク州立大学ビンガムトン校の映画学科の授業の一環として、学生たちとともに作り上げた長編作。当時のアメリカの社会・政治状況などをリアルに映し出す。ビデオアートのような実験的な構成が用いられ、劇映画とドキュメンタリーが混在し、マルチ画面などさまざまな手法を用いて作られた、レイ監督のあくなき挑戦を感じる実験的な野心作であった。73年のカンヌ映画祭で上映されるが、それ以降も追撮や編集が続けられて完成することはなかったが、2011年ベネチア国際映画祭でデジタル復元されたバージョンがプレミア上映されており、同バージョンが2013年に日本でも劇場公開されたようだ。

本作は、『We Can't……』の断片映像とともに、関係者が40年前の出来事を昨日のように振り返るインタビューを中心に構成され、壮大な実験作のありようを補完する。
『We Can't……』を見たい衝動に駆られた。レイのテレビ出演時のインタビューで、「あなたのファンのゴダールは‘’もし映画が滅びても ニコラス・レイだけは映画を発明できるだろう。もっと望ましい形で。‘’」という賛辞を受けるシーンが出てくるが、ヌーヴェル・ヴァーグ作家、いかにゴダールに影響を与えていたのか伺い知れる。

教え子であるジム・ジャームッシュや、敬愛するビクトル・エリセの率直な言葉も含めて、優れた作品を世に送りだした映画監督のエキセントリックな要素も併せ持つ、強い個性と深い人間性を浮き彫りにし、さらには、遺された数々の傑作へと連想が広がる。

本作『あまり期待するな』というタイトルは、『We Can't……』の中でレイ自身が学生に向けてつぶやくセリフでもあり、初期段階の予定タイトルに由来している。
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