いとっ亭

ダラス・バイヤーズクラブのいとっ亭のレビュー・感想・評価

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
4.6
この映画を観て思い出した音楽が、The Lonely Islandといアメリカの半端ない歌唱力を持つコメディアン三人組が歌う「Threw It On The Ground」という曲。
歌詞を要約すると
 体制に従うな
 とても元気になるエナジードリンクだ?
 俺に毒物を飲ませるな!
 常連だからホットドックを一つサービスする?
 俺はチャリティーの対象じゃねぇ!
という内容。まぁ、真面目に話す様な曲じゃないんです。
けど、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」の主人公ロンも、体制に従わず、自分で物事を考え、選択した。ロンは度重なる女遊びでHIVウイルスに感染してしまう。80年代当時はエイズが蔓延していて、今でいうエボラ熱の様に人類の敵だった。しかし、有効な治療薬も無く、国が認可しているAZTという薬は副作用が強く、患者を弱らせる。だから、ロンは生きる為に自分で薬を探すというお話。

 この映画はとっても極端に生き方というものを象徴していて、決められたものに従って生きる者には死を、そうでないものには生を与えている。エイズという人となりが与える病に対して、より有効な薬を求めず、儲けばかりを考えるクソッタレの資本主義社会と戦う男の話。
 ロンはそんな社会のド底辺で生きていたのに、自分の死を悟り生きたいという気持ちに駆られる。けど、その中で自分も金儲けの方法を編み出してしまう。底辺から小金持ちへ転身したものの、彼は生きた心地がせず、真に自分が戦うべき相手に中指を立てる。その過程が実に気持ち良く、自然に描かれていた。
 例えば、灰色で薄汚い部屋から情熱的な赤い壁紙の部屋になったり、好きな人にプレゼントした彼の分身とも言える絵が斜めに飾られていたのに、終盤には真っ直ぐと飾られていたり、死を予感させる耳鳴りの様な不快音は、物語の最後には生を感じさせる音になる。こういった細かい演出も相まって、ロンという一人の男が気高い生き方を選択していく様が脈々と伝わってくる。
 高級時計を着ける為に小奇麗なスーツを着て嘘八百を並べる製薬会社のクソ野郎とカウボーイが真っ向から戦うのはさながら西部劇の様。

 あと、AZTを平気で使う脳みそが空っぽのクソ上司が一番気に入らなかった。こいつが小児科でパッチ・アダムスの真似なのか病気の子供を笑かしてるシーンがあるんだけど、こういう輩が一番の外道だ。おいそれと上の言う事に従って、無関心の様な態度で疑問の一つも持たずに人を殺してる馬鹿が子供を笑かしてる。こういう奴ばっかなんですよ本当。
 主演がマシュー・マコノヒーという事を忘れてしまうくらいいい映画でした。また観たい。