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項羽と劉邦 鴻門の会のtorakoaのレビュー・感想・評価

項羽と劉邦 鴻門の会(2012年製作の映画)
1.8
陳勝・呉広の乱〜楚漢戦争の話が好き+Primeにあったので鑑賞。
理解不能。レッドクリフ(三国志もの)はあれで原作愛かなりあったんだなーと思わされた。

多分、雰囲気のいい音楽つきで古代中国王朝とその様式美を眺めるための作品。

ストーリー重視の人とそこそこ元ネタ愛がある人は観ないほうがいい。ストレス半端ない。

思い浮かんだこと
死にかけ劉邦のストーリーオブライフ、まんがグリム童話、厨二、コミュ障、謎のこだわり、要領を得ない話、ケータイ小説、インド映画

“項羽と劉邦”は、秦末から楚漢戦争の時代の話、という説明ワードとして定着しているようだけど、この作品だと語弊があるような。ちょっとジャケット詐欺な気もする。

死にかけの劉邦(字[あざな]は季)は繰り返し悪夢を見ると言う。過去からの呼び声「沛県劉季」の幻聴と猜疑心と被害妄想に悩まされ耄碌もしているらしい浅慮で僻みっぽい主人公(厨ニ)が、六年も獄に繋ぎ監禁してきたという韓信を如何せんと逡巡し、愚痴ったりポエムったりする話。

ラスト付近を先に見せ、そこに至るまでの晩年と14年前・項羽と韓信との出会いからの追想とを交互に断片的に見せていくスタイルで、頻繁に場面が飛ぶ。
過去と現在を交互に同時進行させる『ストーリーオブライフ 私の若草物語』の構成にちょっと似てると言えば似てる。今どきのシャレオツな見せ方ではあるんだろう。

膨大な話をコンパクトにまとめるのに有効な手段ではあると思う。
が、見る側にとってはわかりにくくややこしく、混乱させられながら頭の中で話を再構築して理解する努力を強いられる。話が飛び飛びでわかりにくくても、そこに至る経緯が不明でも、説明不足でも、ある程度仕方がないといった逃げの不文律がある手法だと思う。
賢明な作り手であれば極力誤解や混乱なく話が伝わるよう努力してくれるだろう。この作品の作り手はそうではない。

過去話と晩年話それぞれは時系列のようでいて、そういった決め事がある訳でもなさそうで、前後が不確かな唐突に始まり唐突に飛ぶ断片を見せられ続ける煩雑さ。
それを繋ぎ補うのが主人公のモノローグなのだが、ポエムめいているので狂言回し役としてそれほど役に立ってはくれず、混乱させてくれたりもする。

元の話を知っていればわかるようになってるんだろう、と、この時代の話を全く知らない人が観たら思うかもしれないが、そんなことはない。普通に説明不足だし、改変・創作の辻褄の合わなさに混乱させられもする。なので「知ってる人向け」ということもないと思う。
何となく知ってる、ざっくりなら知ってる、という人なら引っ掛かりが少なくすんなり話が通るのかもしれない。

元ネタ好きでもまんがグリム童話的な脚色も楽しめる人ならいけるかもと思う。
ゲスいエログロ要素がある訳ではないんだが(ゲスとグロはまあある)、必要性が感じられない改変とか、意味不明な言動とか腑に落ちない展開とか不自然さとか唐突さとか、こじつけ感とか取ってつけた感とか、強引な感じがするのが何となくまんがグリムっぽい。

風景、色味、衣装や調度品など画的には雰囲気あっていいと思う。しかし演出と編集イマイチで、何かダラダラ締まりがない。もうちょっとすっきりタイトにすればCG感も気にならずに済んだかもしれないのに。なけなしのアクションもあんまり練られてない。
暗がりにピンスポみたいな照明多用、常に揺れてる手持ちカメラもちょっと気になる。
アップが多くて漫画みたいな構図だなー狙ってやってるのかなーと思った冒頭ではちょっと期待したんだが。

音楽は使用楽器の雰囲気もよく、あまり邪魔くさくなくて良かった。
衣擦れや足音等の生活音を聞かせるために、音楽よりは積極的に静を取り入れようとしていた印象。悠久の、といった雰囲気作りになっていて良かったと思う。効果音ちょっと音量大きすぎに思ったけど。

いたいけぶってるしたたかな食わせ者感が初っ端から出てた戚夫人よかった。
ちょい役ながら表情のふんわりした変化で人物像を表現しきってる感がお見事。作中描かれない場面までイメージできる。
呂雉は美人すぎる気もするけど、ホラー感ありつつも悪女として名高いとはいえ元からそうだった訳ではない、といった描き方に彼女合ってたと思う。後半何か唐突で理由なき悪役みたいになっててよくわからなかったけど彼女のせいではないだろう。

あとメイン三人が整っててアップに耐える顔だったのはよかったんだろうか。
項羽と韓信の区別つけづらかったし、韓信イケメ過ぎてて、こんな眉目秀麗で小綺麗でパリッとしてたらそうそう舐められてはこなかっただろうよと思ったけど。そこらへん特に出てこないからまあいいのか。私のイメージする韓信像に合いそうな人を暫し考えてみたら柄本佑が浮かんだ。
劉邦は愛嬌と何となく龍顔ぽさ醸し出せてる気がして納得。

アップになるとお名前テロップが出る親切仕様。淮陰侯ってのは韓信だよーとかちょっとした説明も入れてくれてる。
もうわかったからいいって、と思うぐらい結構何度も出してくれてちょっと笑った。

あとコロコロした子犬が一瞬映った気がする。かわいかった。

もう褒めるとこ浮かばない。以下吐き出し。物凄く長い。
一切ネタバレが嫌な人は読まないほうがいい。



国内で誰もが知ってる話に新しさを入れたかったんだろう、独自性を出したい欲求は物凄く感じられる。
イマイチ会話が成り立ってないような咀嚼し難い場面を時系列もわからないままに見せられても、不要なものが多くて必要なものが欠けているパズルという感じで、何を物語りたいか見えてこない。
何を見せたいかが先行し、話はおざなりになったように感じる。話も物語り方も練られていない。ちょっとプロモーション映像的なんだと思う。

伏線らしきものは伏線と言えるほどの役割を持たされていない。
一応繋がっても何だそりゃ、だから何だよぐらいにしか思えない。わざとらしくこれ見よがしに見せてくることがいちいちしょうもない。または意味不明。漂う茶番感。演者も割とオーバーアクト気味。

狙いはわからなくもないけど、文脈おかしいというか語り方が下手くそで、点が繋がって明確に見えてくるといった気持ちよさもない。
何を言ってるのかわからないことも度々。コミュ障気味へっぽこ脚本。ケータイ小説っぽさがある。あと厨二。ラストで「何を言っているんだ。」と声に出してしまった。
どうしてこの脚本でよしと思えたんだろう。衒いと厭味が過剰な独り善がり作品。大まかなプロットだけならわからんでもないんだけど。

恐るべき敵が二人いた。っつって始めておきながら、項羽の怖さを感じさせる場面出さないうちに項羽は最期を迎え、韓信は恐るべき敵ゆえにこうなってるんだろうというのはわかるものの恐るべき敵と思うに至った場面がない。モノローグに頼りすぎ。絵に描いた餅感。
恐るべきはその二人ではなく妻だった、ってことにしては呂雉が描写不足。唐突に怖そうな茶番を見せられても、ふーん何で?ぐらいにしかならない。

いずれも元ネタで脳内補完しとけってことなら、改変・創作しまくっといてそれはどうかと言いたい。

数年後、戦友だった項羽は不倶戴天の敵となり、捕らえられ人質になった妻が七年後、目の前に現れて戸惑うしかなかった
って何を言ってるんだこの人。
妻への興味はともかくアンタの立場上、人質になってる家族をそのままにしておけないでしょうよ。仁とか徳とか義とか評判大事なんじゃないのか。何、帰ってくると思ってなかった、忘れてたみたいな反応してんだ。項羽も項羽だ。交渉に使え。プレッシャーかけてやらないから劉邦が忘れるんだ。
史記のほうではそこまで長年じゃなくて、父ちゃんと一緒に人質になってて釜茹でにしてやるとか色々あって返して貰ったじゃない。この世界では忘れた頃に何となく帰してきたっぽかったが、何でそんなテキトーなんだ。

決起から楚漢戦争終結まで七年ぐらいなはずで、数年後プラス七年後じゃ無理筋なんだが、それは置いとくとしても、不倶戴天の敵で妻を人質に取ってもいながら鴻門の会で亜父の進言無視してまで殺さず生かして漢中王にしてくれたのか。どこら辺に項羽の恐ろしさがあるんだ。

飛ぶ鳥を落とす勢いの項羽を捨てて俺んとこ来た韓信は怪しい、謎だとかぐだぐだ何を言ってるんだろう。
項羽が韓信の進言を全く取り立てなかったからって言ってたじゃない。アンタんとこでも最初似たような理由で見限ろうとしてたじゃない。項羽に勝つにはどうするかって話の時に論功行賞のこと言ってたし、韓信には沈みゆく船にでも思えたんだろうよ。この世界では聞いてないにしても、じゃあ何を以て勝算ありとして打って出たのか訊きたいわ。
あと項伯に訊くのは人選間違ってると思うんだが。愚痴聞いてもらいたかったのか。
もしや何故あの完璧な男を捨てて自分のような年寄に、みたいなBL的煩悶なのか。知らんわ。

漢文でおなじみ鴻門の会がタイトルに入ってたから楽しみにしてたのにつまらん。
兄貴に手を出すなと言って出てきて小競り合いするだけの樊カイ(口+會。樊噲)。彼は案外脳筋じゃないのにな。女や財宝に手をつけないよう諌めたのは張良だけじゃなくて樊カイもだったし。
劉邦と生死を共にという覚悟を言外に感じたのかわからんけど、乗り込んできた樊カイに酒飲め肉食えって応対する項羽、好きなんだよ。で壮士なり、壮士なり、とアッパレアッパレする項羽面白カッコいいのに。
久しぶりに鴻門之会読み返してみたら樊カイ、項羽に説教してちょっと項羽しゅんとなってたw まあ座ったら、みたいになってたw もいっちょいく?(能く復た飲むか)ってのもあったか。滔々と諭す樊カイかっこいいなー。

ニタニタ好戦的、血に飢え暴力に快楽を覚える系類型的漫画キャラみたいな項荘。迸る厨ニ感。

項羽、宮殿に入ったかどうか尋ねるマシーン化。妙なタイミングで訊くぐらい気になっている模様。宮殿に入った・入ってないが最重要事項っぽい意味がわからないんだが。
宮殿に入ったか?劉邦が宮殿に入ったことぐらいお見通しだ!劉邦は宮殿に入ったのか?……「お見通しだ」とは何だったのか。ちょっとアホっぽいとこあるって描写もアリだとは思うけど、こういうのじゃないんだよ。壮士なりマシーンのほうがよっぽどいいよ。

子嬰が若いし美形だし紐見当たらないし曰く有りげで妙だなーと思ってたら別人化してた。秦の幕引きを担った見事な人だと思ってきたが、この世界では厨二か。
子嬰が何をして劉邦が文句言ってるのか不明な場面で、劉邦達が子嬰の訴えにポカーンとしてるとこちょっと面白かった。うん、何言ってるかわからなかったよね。

処刑場面は多分前半のハイライトなんだろう。
子嬰役の容姿も子嬰の言動が妙だったのも、宮殿に入ったかどうかが問題点らしいのも、この場面のためっぽかったので一応ここに集約されてるんだろうし、厨ニ感も集約されてた気がするし、残酷な目に遭う美青年ヒャッハー的な制作陣の盛り上がりを感じた。

破壊力凄まじかった。
滅秦!滅秦!と力強くコールする韓信、処刑で盛り上がる劉邦と側近達。……吐き気がした。あんまりだ。
処刑場面は欧州の歴史ものあたりにザラに出てくるものの、盛り上がってるのは悪役か雑魚キャラぐらいで、主人公周辺は悲しみ見守るぐらいが通例だからここまでキツくなかったんだな。

心証悪くした項羽の手前、とか、始皇帝暗殺未遂事件の首謀者・張良は打倒秦の思いは強いだろうから、とか一応言い訳はできるんだろうけど。十代の頃から親しんできた英傑達のそんな姿は見たくなかった……嫌すぎて泣いた。キツすぎる。
劉邦はできれば子嬰を殺したくなかったのだと思ってきたし、劉邦がそうであるなら側近は賛同してるものと思ってきたよ。不祥だけど項羽がやったことだしいいや、ってことなのか。
妙な台詞については字幕翻訳のせいかもと考えてもいいけど、ここの場面は絶許。更に後半の竹簡の場面で傷に塩。

遺されてる記述が正しいとは限らないなんて誰でもわかってることだと思うし、何か既視感あるんだけど何だろう?まんがグリム童話あたりかなーって考えたとこで、あ!この作品のテイストがそれだわーと物凄く得心が行った。既視感の元は横山光輝作品かも。

創作も改悪も別人化も、史記の記述が正しいとは限らないから、とドヤァっとしてそう。だからアレコレ違ったのねと純心にシナプス繋がる心地良さを感じられる人もいるかもしれない。
私はいやらしいやり方で不愉快だなと思ったし、そうしたいなら辻褄だけでも合わせとくべきだろうに、雑なもんを理屈だけで通そうとされてもなーと思う。脚本書いた奴も監督も、関わった作品二度と絶対観たくないと思った。いい厨ニと悪い厨ニがあると思う。

あと、ラストで何言ってんだこいつって思わせるのはよろしくないと思う。うまいこと言ったみたいになってたけど。意味がわからなすぎたので今以て考えてしまっているあたり、爪痕を残したってことで成功なんだろうか。苦しいこじつけ解釈ならできなくはなさそうなのかなー。

監督は漫画とインド映画好きなんじゃないかな。何かそういう風味がある。

張良が好きな人は観ないほうがいい。別人。
蕭何も過去と老年の顔が一致しづらい人で把握できてない気はするけど、結構な小物感で違う人になってたと思う。
陳平は多分いない。

劉邦に関してはもう何でもありな気がする人物なので、割とどうでも気にならない自信があってクソ野郎でもどんと来いだったのだけど、鬱陶し過ぎるポエマー(厨ニ)は予想外すぎてかなり参った。
鍋底ガリガリ侯みたいな命名とか見るに結構根に持つ人なので、人物像からそう外れてもいなそうではあるのか。

項羽は出番それほどなくて、見せ場らしきとこも悉くイマイチなので、項羽好きな人は別に観なくていいと思う。垓下の歌はない。
韓信が獄に繋がれてる姿は厨二好みな見せ場だろうし出番は多いけど、彼の活躍は垓下の戦いで指揮してるとこチラッとしか出てこないので、韓信好きな人は観るとこ少ないと思う。張良との場面は絶対別人。金八先生の生徒にいそうな感じ。

実話ベースの作品であっても脚色、創作、嘘があるのは観客もわかって観てるはず。嘘があることは全然構わない。上手に嘘を吐いてほしい。気分よく騙されたい。



本宮ひろ志『赤龍王』はざっくりながら楚漢戦争の話が掴みやすく面白いので、未読の方にはお勧めしてみる。Unlimitedに入ってると思う。
あと徳間文庫『史記』もUnlimitedにあったので興味があれば。3巻〜4巻が該当。キングダム好きな人はその前も。



張良が食事中の劉邦の箸を使って説明したという話があるので、この時代に箸は存在していたと思っています。
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