むっしゅたいやき

フラメンコ・フラメンコのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

フラメンコ・フラメンコ(2010年製作の映画)
4.0
私はフラメンコに就いて、全く無知である。
何処かのスペインバルにてバイラオーラに何かしら語り掛けられても、唯一知っているスペイン語、『ハモン・イベリコ・べショータ』と『ムーチョ!』を譫言の様に繰り返すのみであろう。
そして大量に提供されたイベリコ豚の生ハムを、「塩っ辛い」と泪目で咀嚼しているに違いあるまい。

そんな全くの門外漢である私が、何故本作の鑑賞に及んだか-。
特段の理由は無い。
単に、月初の会議報告から解放されたフリーダム感にあてられ、「今の私は、『神』だ」と過信しただけである。

扨、本作にはフラメンコの名手による、21幕の舞台が収められている。
カンテのみの舞台もあれば、圧巻のバイレや影を利用した前衛的な舞台もあり、また伝説的名手によるトケもありで、誠に多種多様で飽きさせない。

此処では21幕全てに言及する事は不可能なので、深く心に残った数幕をレビューする。

・第2幕アレグリア (サラ・バラス)
この人は以前、他作のドキュメンタリーでのストイックな印象の強いバイラオーラである。
背中を一目見れば、その鍛練の程が解る。
シギリージャの名手であるが、本作ではアレグリアを披露。
タップは勿論の事、真紅のドレスをひらりひらりと回転させる様や、指の先まで感情を載せている点は、流石の一言。
圧巻の演舞である。

・第4幕カルタヘーラとブレリアス(ディエゴ・アマドール&ダビ・ドランテス)
ムルシア民謡を、ピアノ二重奏にて演奏。
ピアノに当たる陽の光が曲調に合っていて優しい印象を醸す。

・第9幕"行列"
蒼いベールを頭から纏った、六人からなる群舞。
ベールもドレスも、息のあった演舞に合わせて翻るのが見所。
月夜の演出もマッチしていて、とても美しく感服。

・第12幕"静寂"(イスラエル・ガルバン)
カンテもトケも無し。
バイレのみで月夜の静けさを演出。
絵画に映る影をも利用する点には独創性を感じる。

・第16幕"エル・ティエンポ"
これも六人のバイラオーラによる群舞。
叙情的で切ない曲調に合わせ、各々の立ち位置を入れ替えながら統一された動きで舞う。
第9幕ではベールの為に見えなかった、手指による感情表現に注目。

・第18幕ナナ(ミゲル・ポベダ&エバ・ジェルバブエナ)
舞台に雨を演出。
単なる子守唄でなく、雨に濡れつつ演舞する事で男女二人の感情を扇情的に表現。
ただ、個人的には"スーツ、傷むぞ"。

・第20幕ブレリア・ポル・ソレア(パコ・デ・ルシア)
フラメンコギターの伝説的名手パコ・デ・ルシアがトケを担当し、テンポの早いブレリアを演奏。
「鳴きのギター」とはよく使われる表現であるが、その鳴きの調子に複雑な感情を載せられるのはこの人くらいであろう。
前半の山がサラ・バラスならば、大トリはこの人。

映像作品は、視聴環境によって受ける印象が全く異なる。
本作に於いては蝋燭を灯し、サングリアを傾けながら鑑賞するが良かろうかと思う。
舞台芸術だ、と肩肘を張らず、ゆったりと鑑賞したい作品である。
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