ルサチマ

化粧雪のルサチマのレビュー・感想・評価

化粧雪(1940年製作の映画)
4.8
かなり『鶴八鶴次郎』的な物語であるが、原案に成瀬の名前があり納得。死にゆく父が大事にしていた寄席を売却できずにいる山田五十鈴と、そうした妹の態度が気に食わない心無い兄貴が大学受験を夢見る弟を唆し、売却のための印鑑を盗むように命じるというそれだけの話だが、成瀬同様に石田民三も芸道に対する執念を存分に発揮してクライマックスでの寄席に集う芸者たちの舞台姿を潔くシンプルな長回しとカメラ構図で捉えてみせるのが見事。それに対して人物の会話劇はやや凝ったデクパージュによって構成することで映画全体のメリハリと情動を煽りつつ、カット割りが生み出す光の陰影を最大限発揮してみせるのが名人芸。何はともあれ、山田五十鈴の虚な言葉の空転というか、か細くも芯のこもった調子で空間の中で言葉尻が余韻として響く音響的美しさがなんとも素晴らしく、役者への芝居演出へのこだわりを強く感じる。
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