Makiko

東京の恋人のMakikoのレビュー・感想・評価

東京の恋人(1952年製作の映画)
3.4
ハリウッドのスクリューボールコメディを意識したようなドタバタ喜劇。

富裕層の暮らしを面白おかしく描きつつ、戦争の爪痕が残る東京の街や人を中心に据えるスタイルは『カルメン純情す』を思い出させ、GHQ占領下の混乱した日本社会を映し出す。

三船敏郎と原節子という濃ゆい二人を見せるための娯楽映画。半袖シャツにパンツ、ベレー帽というラフなスタイルの原節子はレア。

「フーチャカピーのカス漬けみたいな女!」とか、大中小三銃士の歌「シュシュシュシューシャイン」など、面白くて印象に残るフレーズが多かった。
パチンコ玉の社長夫妻が喧嘩するシーンは、シャワーの使い方がまんま『襤褸と宝石』のウィリアム・パウエルとキャロル・ロンバードだったり、『欲望という名の列車』をもじったセリフがあったりと洋画へのオマージュが沢山出てきて楽しかった。

杉葉子の部屋の壁に大量に貼ってあるのは、ハリウッド女優のブロマイド。その中でもひときわ目立つ場所に大きなイングリッド・バーグマンのブロマイドがあり、隣に原節子が座るという画。
それぞれの映画業界内外での圧倒的な人気の高さをはじめ、同年代の女優の中ではかなり長身であること、それも杉葉子やオードリー・ヘプバーンのような細身というよりは肩幅が広くガッシリとした骨格であること、“聖女“としてのパブリックイメージを持つこと……。
ハリウッドと日本という異なる世界で共通するペルソナを持った二人の女優の「共演」。原節子はその「日本人らしからぬ」ルックスによって、戦前から戦後にかけて日本人の西洋コンプを埋める役割を持たされてきた女優だ。本作では、戦前から日本の大スターであった原節子をハリウッドの大スターであるバーグマンになぞらえることで、敗戦を経てアメリカの占領下となった日本の人々が持つ劣等感を、アメリカに対する前向きな憧れに変える作用を持っているようにも見える。
また実際に、原節子はバーグマンの大ファンだったというから、何故かこちらが嬉しくなってニヤニヤしてしまう。

杉葉子……初登場シーンのたたずまいがカッコよすぎた。本作ではパンパンガールの役で、潔癖な似顔絵描きの原節子と対をなす。具合が悪くなったのは体の酷使によるものか、それとも性病か。とにかく杉葉子はずっと寝込んでいて、ついには死んでしまう。
それなのに次のシーンでは三船敏郎と原節子がケタケタ笑っていて、もう三船敏郎なんかは「いやあ肩の荷が下りましたよ」とまで言っていて引いた。これじゃ東宝が三船・原ペアを見せるために杉葉子の無駄遣いをしたみたいじゃないか!
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