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ポン・ジュノ アーリーワークスのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

3.9
ポンジュノが学生時代に撮った3本の短編集。
もちろん低予算だしチープではありますが、カメラの撮り方とかやっぱり上手いんですよね。
で、アマチュア時代から、やはりポンジュノらしさがあって、その後の素晴らしい作品の数々に繋がってるのがよくわかります。

1作目の「支離滅裂」は3つのエピソードとエピローグで構成されていますが、3作の中で一番面白かったです。
どのエピソードもそれぞれ別々の男性が主人公で、エロ本が女性に見つからないようにスッタモンダする話と、よその家の牛乳を盗む話と、酔っ払った帰りに迷子になった上に便意を催すオッサンの本当にくだらない話です。
それでエピローグでうまくまとまってポンジュノらしい皮肉の効いたブラックな笑いになっているんです。

偉そうなこと言うてるオッサンの欺瞞を超バカにしてるところが面白くて笑えました。
で、それだけじゃなく、2つ目のエピソードでソウルの細い路地が出てきますが、坂道を行ったり来たり、細く入り組んでて、こういう路地は韓国映画でよく見ますが、「母なる証明」や「殺人の追憶」でも出てたように思うし、牛乳泥棒のオッサンを追うカメラがスリリングなんですよね。
こういう撮り方によって、ほんとにくだらない話なのに目が離せなくなるように引きつけられるんです。

また、3つ目のエピソードでは、ビルの地下室が出てきますが、これはパッと見た瞬間に「吠える犬は噛まない」の地下だ!と思いました。
炊飯器などの置き方も似た雰囲気だったですが、実際同じ地下で撮影したそうで、それがしかもポンジュノの実家のアパートの地下だというのもインタビューで言ってて耳より情報でした。

3作目の「白色人」は、すごくヘンな話で、主人公はサラリーマンなんですが、そいつがおよそ人の心を持ってるとは思えない、人格の欠落したような男で、冒頭に家の窓辺でタバコを吸ってるシーンで、飼ってる金魚をいたぶるのを見てて、なんやこのオッサン、頭イカレとんなとギョッとさせるのですが、このサラリーマンが自宅の高層マンションの駐車場で出勤前に落ちてた人の指を拾うという話です。
この設定で、リンチの「ブルーベルベット」で道で人間の耳を拾うのを思い出しました。

もうこの男がやることなす事がヘン過ぎてすごいシュールな話ですが、男が延々と歩いてソウルの市街地から自宅のマンションに帰るシーンがあり、そのシーンでは、「パラサイト」とは逆にずっと坂道を上って行くんです。
ですが、男の住むマンションに行くまでの道程で、わざわざ貧困層が住む街の様子を映して対照的な印象を与えています。

貧しいけど生活感があって子ども達がワイワイしてる活気のある様子と、高層マンションに住んでるホワイトカラーではあるが、一体何を考えてるかサッパリわからん人間味のない不気味な男と対比しているように思えました。

そう思うと、ポンジュノの社会を捉える眼差しはこの頃からあって、今も変わっていないのがわかりました。
そして学生の頃からすでに才能を発揮してて、やっぱり天才なんだなとあらためて思いました。
面白かったです!

25
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