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ブリスフリー・ユアーズのryosukeのレビュー・感想・評価

ブリスフリー・ユアーズ(2002年製作の映画)
3.5
序盤はドキュメンタリータッチの長回し、悪く言えばただ撮ってるだけ感の強い映像にアピチャッポンマジックが感じられず、音楽の入れ方もまだあまり切れ味が無いなという印象で結構退屈。
「世紀の光」にも湿疹の症状を訴える患者が出てきた気がするんだけど、何か個人的な記憶があるのだろうか(記憶違いかも)。爪を切ってヤスリをかける。クリームがついた手でサイドブレーキを撫でる手つき。
「ブンミおじさんの森」「真昼の不思議な物体」にも車移動を延々と映すシーンがあったが、本作のが一番退屈だなあ...と思っていると、クレジットが入ってきてびっくり。導入長すぎて流石アピチャッポンの時間感覚だなあと。これ以後アピチャッポンゾーンである森に侵入して、やっと見られる感じになってくるが、今まで見てきたアピチャッポン作品の中でも一番何も起こらないスローな作品だった。
不法入国者の生きづらさも序盤で描かれているが、やはり森に入ると同時に現実の問題は無化され、ただ静かに時間だけが流れる。
これまで見たアピチャッポン作品で最も激しい性描写もある。若いカップルがイチャイチャしているというのにそのシーンは中年カップルというね。ただ、アピチャッポン映画においてはそうであるべきなのかもしれないとは思える。趣旨がブレないようにというか。森の中であることもあり、アピチャッポン作品らしく?人と獣の境界線が消失しているようにも見える。
男性器の形状変化がこんなに堂々とスクリーンの中央に映ったのは初めて見た。「世紀の光」でも勃起描写はあったし、やはりアピチャッポン的には(彼の性的指向もあり)こだわりのあるところなのだろうか。
オーンがルンに向ける真顔に、ときおりゾッとする怖さがある。ルンのオーンへの敵意も明確に述べられる。二人で寝そべるカップルと一人で横たわる女を木々を挟んで映し出す象徴的なロングショットが挟まり、オーンは泣き出す。この辺りを見ていると、やっぱり三角関係なのかな。
ラスト間際のルンの表情がどこか悲しげなのは、ミンの心はミャンマーに残してきた家族に向けられており、やがてタイを去ることを悟っているからであろうか。無人ショットとして二人の秘密の景色が差し込まれ、観客にちらっと目線をやるルンで締める終幕が切ない。
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