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ラヴレースのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ラヴレース(2013年製作の映画)
3.6
ポルノ映画の伝説的名作とされる『ディープスロート』の主演女優リンダ・ラヴレースの伝記映画。彼女が著した自叙伝が原作。

90sトラッシュ/サブカル野郎なんでポルノも守備範囲なんで『ディープスロート』は当然観ている。
ポルノと言っても70年代前半の作品なんでAV以降の作品と比べると長閑で牧歌的な代物で伝説的と言っても実用的なエロとして評価されてるわけではない。まず歴史的な意味合いで初めて本当のプレイを撮ったハードコア・ポルノ(要するに今で言う普通のAV)であることと、喉の奥に陰核がある特異体質の女性が陰茎を深く咥えこむことで性的快楽を得るというキッチュでユーモラスな作風がバットテイスト・カルチャーの中でカルト的な支持を得ている。確かにバッドテイスト・ギング、ジョン・ウォーターズの作品に似てる笑

そんなエロティックでユーモラスな作風が大当りして主演のリンダ・ラヴレースもセックス・シンボルとしての名声を得る。
キュートだが地味な童顔、スタイルも微妙な女優が特技(ディープスロート)を活かしてセクシー・スターに成り上がるシンデレラ・ストーリーだと当時は思われていたが、その実情は悲惨な陰惨なものだった。

リンダの夫で彼女のマネージャーのチャック・トレイナーはあらゆるDVを使い彼女を隷属させるクズ野郎だった。
ポルノに出たのもチャックが事業に失敗して作った多額の借金を返済するため。
このチャックのDVが古典的であり今もある典型的なもので男の支配欲と暴力性は昔から変わらないんだな、とヒリついた気持ちになった。
人前でチャックの言うことに逆らうと後で暴力と性暴力をふるい恐怖を与える。常に監視して二人の関係の異常性を指摘する同性の友人から切り離す。そしてリンダの精神が崩壊しそうになると、一転、甘い言葉と寛容さと深い愛を語り、「これは愛なんだと」刷り込もうとする。
ここをじっくり描いているので胸くそ悪い時間が長い。

この映画で一番印象的だったのはリンダがチャックから脱走して実家に逃げてきて母親に保護を求めるんだけど、母親はリンダを突き放すんだよね。夫を怒らせるのが悪い、夫に従うのが妻の努め、カトリックだから離婚は許さない、母親からこう言われてリンダは絶望してチャックのとこに戻る。明らかに娘を見殺しにしてるんだけど、母親が言ったことは建前として正論で当時の社会常識、要するに構造的に女性が社会から抑圧されてること。同じ女性でしかも母親であってもそういう価値に眼が曇り娘の苦しみを理解してあげることができない。とても深刻な問題だ。そしてこういう悲劇は今も起こっている。

そんな虐待を受ける日々を何とか耐えチャックと離婚し、リンダはDV問題とポルノ業界の違法性を告発するようになり、原作の自叙伝もその一環で著されたもの。
日本でもそうだけどポルノ女優が後になって出演は強制されたものだ、と告発すると、「何故もっと早く告発しないんだ」とか「いやなはずなのに止めてないから嘘だろう」「売名行為だ」と非難を受けるわけで、そしてそれは主に男から発せられる。昔から現在に至るまでこういう被害の告発をする女性が出てくるってことは間違いなく問題があってそれは男側が都合よく、時に社会構造を使い女性を抑圧、服従させてきた事実があるならなんだよ。
リンダの場合はチャックが悪辣なスケコマシで映画出演はリンダの意志という形を取ってるけど、それは愛情を支配に使い暴力で脅された結果、チャックの意思に服従することしかできなくさせられてるからなんだよ。どんな時もフラットに自分の意思だけで決断できる人間なんかいないんだよ。大人がそんな風に洗脳されるわけがないと言ったりもしてるけど、そういう男はチャックみたいな男がいるってことが理解できない。自分のせいでモテなくてミゾジニーを拗らせてさらにモテなくなってるから、悪い奴なのにモテて女性を意のままに操れる男の存在を認めたくないんだよ、自分がさらに惨めになるから笑

そういうダメでいじけたミソジニー野郎にこそ観てほしい映画なんだけど、まあ、観ないだろうな。
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