アキラナウェイ

愛の嵐のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

愛の嵐(1973年製作の映画)
3.3
トップレスにサスペンダーというショッキングなビジュアルに惹かれて、元々観たかった作品。後日、そのジャケット写真の主が若き日のシャーロット・ランプリングとして、俄然観たくなったという経緯。

1957年、冬のウィーン。とあるホテルで夜番のフロント係兼ポーターとして働くマックス(ダーク・ボガード)は、戦時中はナチス親衛隊の将校で、現在は素性を隠して静かに暮らしていた。しかし、彼の日常を脅かすかの様に、ホテルの客として現れたアメリカから有名なオペラ指揮者の妻の姿にマックスは困惑する。彼女、ルチア(シャーロット・ランプリング)は、かつて自分が強制収容所で弄んだユダヤ人の少女だった。

若かりしシャーロット・ランプリングが美しい。
公開当時、20代後半。
意志の強さが宿るその眼光の鋭さは変わらない。
寧ろその鋭さは今以上に強い。

ドイツだけではなく、隣国オーストリアの国民の一部もナチス親衛隊入りを志願したという歴史的事実にも驚いた。

かつて自分を苦しめたナチスの将校。
ルチアにとっては、心の奥底に沈め、封印した筈の記憶。

髪を切られ、裸にされ、彼の倒錯した性の玩具として扱われた忌むべき過去。

ルチアが過去の亡霊に苛まれるのと同じく、
マックスも戦後のナチ残党狩りに恐怖の念を覚えていた。

元ナチスの将校の面々は、互いに過去の罪を揉み消し合い、時には証人の抹殺に手を染めている。
ルチアもその存在が知られれば、命を狙われてしまう。

過去の日々が鮮明に映し出されると同時に、元ナチスの将校達は、彼女の存在に気付き始めていく。この現在と過去のシーンの移り変わりで、緊張感は次第に高まっていく。

お互い避ける様にしていた筈の2人だが、
マックスがルチアの部屋を訪れた時、
彼らは堰(せき)を切った様に、激しく求め合う。

もう、この辺りの心情は正直理解が出来ない。
理解は出来ないけど、誰にも説明がつかない、愛憎の入り混じった生々しい感情が彼らの間には確かに在ったのだろう。

けたたましく笑い、殴り合い、そしてお互いの身体を重ねる。

いやぁ。もう、本当に嵐だよ。大嵐だよ。

ルチアは指揮者の夫とは別行動を取っていた為、2人はナチ残党狩りの暗殺から逃れる為に、マックスの部屋で隠れて暮らし始める。

この後半パートが、完全に膠着(こうちゃく)状態となり、ドラマに動きがないので、少し退屈してしまったのは残念。

しかし、ジャケット写真にある衣装で、ナチスの将校達の前で官能的に歌い上げるルチアの姿は圧巻。

また、籠城生活となってしまう2人きりの生活は、飢えとの戦いで、割れた瓶から手掴みでジャムを啜(すす)り食べるルチアが凄まじいインパクトを与える。

倒錯した愛憎。

理解の範疇は超えているけど、何せ凄いものを観たという思いは確かに残る衝撃作。