OASIS

冬冬の夏休みのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

祖父のいる田舎で夏休みを過ごす事になった兄妹の日常を描いた映画。
監督は「非情城市」等のホウ・シャオシェン。

夏の日の思い出は、その瞬間そのものが特別であるが故に全ての人や物との出会いが奇跡的なものの様に煌めいて見えるものなのだろうか。
過ぎてみれば何でもなかったと思うような事も、夏の魔法にかけられたフィルター越しの目線からは見るもの触れるもの全てが新鮮に映り甘美な誘惑をもたらす。
そんな、思い出す度に夏の匂いが漂って来るような眠っている少年の心を刺激する、毎日に疲れた大人の為の夏休み。

小学校を卒業した兄のトントンと妹のティンティン。
祖父のいる銅鑼へとやって来た二人は、道に迷いはぐれたり、地元の子供達と川に飛び込んで泳いだりと自然の恵みを全身に浴びながら駆け回る。
微塵も恥ずかしさを感じさせず裸で泳ぎ、無邪気に木に登り、昆虫採集をしたり。
興味の湧いた物全てに全力でぶつかっていく怖いもの知らずの姿勢は、それらから距離を取ってしまった現在となってはもう気軽に彼らと同じように振る舞えないという悲しさがある。

例え子供の目線に立って童心にかえると言っても限界があるだろうし、意識せずともいつの間にか保護者側の視点に立っていたりする訳で、どこかでブレーキがかかってしまう。
この作品は、抑制されず自由に駆け回るトントンや子供達の姿にいつしか自分自信を投影し、画面の中に広がる風景と同化する姿を想像させるような気分の解放を促してくれる。
子供から見た希望に満ちた世界の眩しさと、子供なりの無邪気な行動、その何が起きるか分からない日常の中のサプライズ感に身を委ねるべし、と。

仲間に入れてもらえないティンティンはいじけ始め、知り合った不思議な女性ハンズをいつしか慕うようになる。
列車に轢かれそうになるティンティンをハンズが救出するシーンや、ハンズが木から落ちるシーンは日常風景とは違う異質さで肝を冷やす。
そんな大きなアクシデントも稀に起きる事もあるが、重大事件のように思えていた出来事も季節が過ぎればある夏の日の一コマとして頭が勝手に良い思い出に処理してしまったりもする。
大人になった時、ふと思い出して「ひょっとしてあの時もしかしたら死にそうだったのかも..,」と子供時代の無茶な行動に戦慄するのもまた一興だろう。

物騒な強盗事件が起きても、おじちゃんが痔になって村中に響き渡るように泣き叫んでも、それらは大切なエピソードの一つとして数えられ記憶に収められて行く。
経験した事や挑戦した事に善し悪しは関係無く、特別な時間はいつまでも自分の中で特別な物として残り続けるだろうと思う。
夏休みの宿題なんて、問題を解いて提出してしまえば何も残らないのと同じ。

明光義塾のキャラクター「サボロー」の様に、好奇心に溢れ毎日違う世界へ連れ出してくれるような友達こそ大切にすべきなんじゃないだろうかと思う作品だった。
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