オレンジマン

冬冬の夏休みのオレンジマンのレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.0
なんでこんなにもうまく夏休みを描けるのだろうか。

母親が手術を受けるために祖父の家に預けられた冬冬とその妹婷婷が過ごすひと夏の話。
彼らはテレビを見ることも、ゲームをすることもなく、物語が始まった瞬間から冬冬は玩具を捨てて、カメという生命へと向かう。
ヘッドホンをすることのない冬冬の耳には蝉の声やカエルの声、家の近くを通る電車の音が自然と入り込み、侯孝賢は冬冬の耳と観客の耳を一体化させることで、我々をノスタルジー溢れる時空へと引き込んで行く。

しかしこの作品の素晴らしいところはただノスタルジーに浸るゆるふわ映画なのではなく、全編にわたって"生と死"の空気が漂い自然な装いの中で、それらがしんみりと伝わってくるところだと思う。
冬冬の母親の手術も、小鳥も、寒子の妊娠と流産も、叔父さんのできちゃった婚も、"望まれる生命望まれない生命、望まれる死望まれない死"という悲しいテーマを僕らに伝えているのではないだろうか。
日本でも夏といえば、お盆で死者の魂が現世に帰ってくるわけだが、彼らは現世にノスタルジーを感じるんだろうか。死者から見た生者の世界のノスタルジーはどのようなものなんだろうか。
そんなノスタルジーがこの作品には通底している気がして、一層どことないむずがゆさというかぞわぞわした印象を受けた。

何度となく繰り返し観たくなる映画でした。
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