エソラゴト

フォックスキャッチャーのエソラゴトのレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
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上映時間2時間強、ピンと張り詰めた緊張感が画面全体を支配し淡々とした話運びにもかかわらず集中力が途切れずに鑑賞することが出来たのは、監督ベネット・ミラーの確かな手腕とそれに応える3人の俳優陣の豊かな演技力に因るもの。

同時期公開、同じ実話ベースの『アメリカン・スナイパー』とは全く異なる緊迫感が漂い、両作品とも結末が結末なだけに何とも言えない虚無感、虚脱感が体中を襲い鑑賞後は心地良くない疲労感でグッタリ。

その緊張感の正体は3人の男の人間関係。同情、近親憎悪、嫉妬心、共依存…様々な要因はまるで男女間の三角関係にも似た歪な関係性ー。

お互いの置かれた境遇や心情に共鳴し合い精神的に通じ合っていたマークとジョンの関係性に富や名声から一番遠いところにいる人物マークの兄デイヴが介入することで徐々に歯車が狂っていく。

2人が欲した名声を勝ち取る為に呼ばれた最善の人物が結果的には一番の邪魔者になってしまうという皮肉な展開。歪んだ性根を持つ2人にとって純粋さや無垢さを持ち続けるデイヴは悪い方向への化学反応を誘発する劇薬だったのか?

音楽が極力排された劇中である大会後の祝賀パーティーで流れたデビッド・ボウイの楽曲「Fame」がより一層耳に残る。名声の愚かしさを歌い上げるその歌は誰よりも名声を欲するジョンによって制止され勝利の雄叫びによりかき消される。

ジョンという人物の人間性を如実に表現するシーンであると共に富を持つ人間が次に欲する物が如何に狂気をはらんでいるものなのかが垣間見られる象徴的なシーンだった。

2人の呪縛から解き放たれて、以前は軽蔑していたオクタゴンに生きる道を選んだマークの目に生気と活気が蘇っていた場面にこの物語の唯一の救いを見い出すことが出来た。