くるみ

観相師 かんそうしのくるみのネタバレレビュー・内容・結末

観相師 かんそうし(2013年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

2014/07/05
史実はぜんぜん知らずに鑑賞。前半、牧歌的な風景やコミカルな展開と会話が続き「歴史ものだと、血と暴力に満ちた韓国映画のレッテルをはずす作りになるのかな」と思っていたら、後半で引っ繰り返されました。

具体的には、簒奪者の首陽大君が出てきてからです。登場シーン、すごかった!
黒い衣服も黒い毛皮も血なまぐさい獲物も、ばっちりの役割を果たしたうえに、過剰過ぎて軽すぎるなどと思っていた音楽が急におどろおどろしく聞こえてしまう。
そこからはもう、首陽大君の天下です。出るたびに何か悲劇を起こすのだろうとヒヤヒヤし、悪逆非道ぶりを見せつけてくれました。この人、とにかく他人の嫌がる顔を見たくて仕方がないんでしょうね。最後にわざわざ弓を放つところなんか、真性のサディストって感じだった。前半の穏やかさとの落差で、悲劇感が何割か増やされていた。

でも、観相師キム・ネギョンが霞んだわけでもない。特に占いの光陰を体現してくれたのが嬉しかったです。
クーデターを阻止するため、キム・ネギョンたちは、首陽大君にホクロを作ります。逆賊に相応しい人相になれば、国王が首陽大君を討つだろうと望んでのことです。でも、この行動は裏目に出ました。

人間が自分の行く末を占って欲しいと願うのは、悪い未来を避けられると思っているからです。この心情は観相師たるキム・ネギョンも例外ではなく、占いの結果に抗おうと、あれやこれやと画策します。だけど、このお話における占いの結果は、本当に避けられない運命のことです。何をやっても無駄になる。

ホクロを作ったことで国王は首陽大君の討伐を決意しますが、その行動を事前に察知され、簒奪は成功してしまいました(計画を知ったのは義弟の注進でしたが、あそこが穴だと察知していたから、首陽大君は罠を仕掛けたのでしょう)。
でも、そのずっと前、首陽大君が国王に手を下しかけたとき、彼はサディストらしからぬ躊躇いの表情を見せていました。臣下の節、甥への情が野心を上回ったのだと思います。国王が首陽大君を慕ったままだったら、クーデターを起こす気もなくしていたかもしれません。
つまり、ホクロによって首陽大君は逆賊として完成してしまった。ネギョンの占い通りの未来です。息子の末路も同じです。

逆賊の人相だから簒奪したのか、簒奪したいから逆賊の人相になったのか。
もしくは、占った未来が回避できないならなぜ占いがあるのか、回避できない未来を読めるから稀代の占い師なのか。
こういう「卵が先か鶏が先か」話、大好きです。

ネギョンは自分の能力を本当の意味では信じていなかったのでしょう。
最後、海を見ながらのセリフ「波ばかり見ていて、波を起こす風を見ていなかった」は、自分の占いが何なのかを悟ったものだと思いました。首曲がりに運命を告げたのも、大いなる復讐ですね。
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