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いなべのKuutaのレビュー・感想・評価

いなべ(2013年製作の映画)
3.7
姉(倉田あみ)が突然実家に帰ってきて、弟(松田洋昌)と散歩する短編。三重県いなべ市を舞台とした吉本興業の「地域発信型映画」だが、「田舎っていいよね」的な緩い雰囲気は一切なく、いなべ市を生と死の混在する魔境として描いた深田晃司らしい不気味な作品に仕上がっている。

上(異界)から下(現実)を見下ろす構図の反復。バストショットの切り返しにフルショットを置き、アンバランスな関係を示唆するJホラー演出。誰の視点なのか分からないカメラワークは「淵に立つ」や「よこがお」でも繰り返されている。

いなべ市と連続する「現実」である大阪と大分の方向を指差す時はカットを割らないが、東京へ向かうとカットを割る。断絶した場所に行ってしまった姉が、弟に話しかける距離感の妙。マジックアワーで許された姉と弟の邂逅は、日没によって引き裂かれていく。弟の現実への回帰を遠くから見つめる目線が切ない。

市内の面白い風景(アーチや展望台など)を「異界」への入り口として取り込んでいる。シンメトリーな橋を渡る=三途の川。どんどん異界に巻き込まれる後半も良いが、姉と弟が木の幹に囲まれる構図や、物干し竿に閉じ込められたおばあちゃんなど、「異界への門」が前半の日常にも差し込まれているのが丁寧だ。

橋を渡った先にある黄泉の国では、笑い飯の2人と鈴木Q太郎がサッカーをしている。彼らは白と黒の服を着て、白と黒のボールをぐるぐると回し、やがて「誕生日」だと言って姿を消す。養豚場で働く弟が、豚の命のサイクルを回す冒頭と繋がってくる。

ちょっとややこしい家族関係の説明を「高校生の妹の会話のきゃっきゃ感」「田舎道を自転車で走る長回し」という2要素の力技で乗り切っているのもなんか良かった。75点。

世界の映画祭が持ち寄った作品をYouTubeで公開する「We Are One」というチャリティー企画で、東京国際映画祭からエントリーした一本。昨日から7日間、無料で見られる。
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